六大陸の一つで、アメリカ大陸のうちパナマ地峡以南の部分をさす。文化的には、メキシコ、中央アメリカ、西インド諸島などの中部アメリカとあわせてラテンアメリカと称することが多い。ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、スリナム、ガイアナの12か国とフランス領ギアナおよびイギリス領(アルゼンチンも領有を主張している)フォークランド諸島の2地域よりなり、面積1779万5289平方キロメートル、人口3億1827万(1996推計)。
[松本栄次]
南アメリカ大陸は、北端がコロンビア、グアヒラ半島の北緯12度28分、南端がホーン岬の南緯55度59分で、主として南半球の熱帯から温帯地域にかけて広がっている。大陸の東端はブラジル北東部、ブランコ岬の西経34度48分、西端はペルー北部、パリニャス岬の西経81度20分で、赤道のすこし南で東西の幅がもっとも広く、南方へ向かってしだいに狭くなる形をしているため、熱帯気候の地域が陸地の3分の2余りを占める。高緯度地方では陸地の幅が狭く海洋性気候が卓越するため、著しく寒冷な冬をもつ冷温帯・寒帯気候の地域は皆無に近い。
南アメリカ大陸の地体構造や大地形の配列は比較的単純である。大陸の西部には、環太平洋新期造山帯の一部であるアンデス山脈が大陸を縁どるように走っている。アンデス山脈以外の広い地域は、かつてアフリカ大陸などとともにゴンドワナ大陸を形づくっていたといわれる安定陸塊で、その東部はギアナ高地やブラジル高原などの古い岩石からなる高原地帯、その西部すなわち高原地帯とアンデス山脈との間には、低平な平野がほぼ南北に連続し中央低地帯をつくっている。
アンデス山脈は南北約8500キロメートルにわたり切れ目なく連なる大山脈で、アコンカグア山(6960メートル)を最高に6000メートル級の氷雪を頂いた高峰を多数もつ。互いに平行に走る数列の支脈からなり、その間に、アルティプラノ高原のような高い高原やエクアドルやチリの中央谷のような細長い盆地が多数横たわっている。プレートテクトニクスの観点からは、アンデス山脈は南アメリカプレートの下へ西側の太平洋のプレート群(ナスカプレート、南極プレート)が潜り込んでいく沈み込み帯にあたり、山脈に沿った太平洋底には、両プレートの境界をなすペルー・チリ海溝が走っている。このような変動帯にあたるアンデス地域は、1960年のチリ地震、70年のペルー地震、85年のルイス火山の噴火などに代表される火山・地震災害の頻発地帯である。南緯35度以南の南部アンデスは氷雪に覆われた部分が多く、人口希薄地帯であるが、熱帯、亜熱帯に位置する北部・中部アンデスでは、年中温暖ないし冷涼な熱帯高山気候をもつ標高1000~3000メートルの山地に広く耕地や牧場が開かれ、多くの都市や村落が分布している。アンデス山脈西麓(せいろく)の太平洋海岸地帯の気候は、北から南へ、コロンビア西岸の高温で非常に多雨な熱帯雨林気候、ペルーからチリ北部の著しく雨の少ない砂漠気候、チリ中部の地中海性気候、チリ南部の冷涼多雨な西岸海洋性気候と、緯度とともに変化する。
中央低地帯の平原は、南アメリカの三大河川であるオリノコ、アマゾン、ラ・プラタの各河川の流域ごとに、北からオリノコ平原、アマゾン平原、ラ・プラタ(南部)平原に三分される。リャノともよばれるオリノコ平原は、雨期と乾期のはっきりしたサバナ気候下に小灌木(かんぼく)を交えた草原が広がり、粗放的な牧畜地帯をなす。アマゾン平原はアマゾン川の上流域でもっとも広く、アマゾン川沿いに大西洋岸まで続く、標高ほぼ200メートル以下の平原である。川沿いにはバルゼアとよばれる低湿な氾濫(はんらん)原が続くが、平原の大部分はテラ・フィルメとよばれる低い台地である。年中高温多雨な熱帯雨林気候下にセルバとよばれる大森林が発達している。南北に長いラ・プラタ平原は、北部の熱帯半乾燥気候を呈するグラン・チャコと、南部の温帯草原が広がり豊かな農牧地帯をなすパンパとからなる。
南アメリカ大陸の東部を占める高原地帯は、アマゾン川沿いの低地によって北のギアナ高地と南のブラジル高原に分けられる。ギアナ高地は、一部に最高峰ネブリナ山(3014メートル)のような高峰もあるが、一般には標高1000メートル前後の低山性の地塊で、北西部はリャノと同様なサバナ気候、南東部はアマゾン平原と同様の熱帯雨林気候下にある。ブラジル高原は南東縁の部分でもっとも高度が大きく、2000メートル級の山岳もみられるが、多くは標高500~1000メートルのなだらかに起伏した高原である。一部には古生代以降の水平な地層からなる平坦(へいたん)な台地もみられる。ほぼ南回帰線以南の亜熱帯・温帯森林地帯とブラジル北東部の熱帯半乾燥地域を除き、ブラジル高原の大部分は4~5か月の乾期をもつサバナ気候で、セラードとよばれる疎林の原野が広がっている。ブラジル高原南東辺の大西洋沿岸地帯は多雨な熱帯森林地帯をなす。アルゼンチン南部、アンデス山脈東麓のパタゴニア地方は、深い谷で刻まれた台地が主体をなす荒涼たる半砂漠地帯である。
[松本栄次]
南米大陸はおよそ北緯12度から南緯55度にかけて位置し、気候帯も熱帯から寒帯までと広い。太平洋岸沿いには標高6000メートルを超えるアンデス山脈がほぼ南北に走る。南アメリカの植生は、赤道を挟んで南北に広がるアマゾン低地の熱帯多雨林、さらにその南東から南にかけて広がる半乾燥地域のセラード(サバナ的相観をもつ群落)やカーチンガ(棘(きょく)性の高木、低木やサボテンからなる群落)などによって代表される。以下、南アメリカのおもな植生について述べる。
(1)マングローブ林 北部ペルーからコロンビアの北部にかけての太平洋岸と、大西洋岸の熱帯から亜熱帯地域に分布する。塩分濃度が高く、泥中の通気が悪いという条件下のため、気根などを伸ばして生育する。属ではリゾフォラ、アウィセニア、コノカルプス、ラグンクラリアなどがあげられる。
(2)熱帯多雨林 ブラジルの北東沿岸からアンデスの東斜面下部のアマゾン地域、コロンビアからベネズエラにまたがるオリノコ低地などに分布する。ほとんどが木本種(草本種は20%以下)によって構成され、木生つる植物や樹高45~60メートルという巨大な樹木が生育する。生態調査によれば、1ヘクタール当り74種、540個体の木本種が認められる多種の群落でもある。
(3)チャコ、セラード、カーチンガ チャコとは平原の意で、ここには南アメリカ特有の植生が成立する。アマゾンの南の南ブラジル山地とアンデス山脈の間には、面積約65万平方キロメートルもの広がりをもったグラン・チャコが展開するが、ここでは樹高が20メートルを超えるプロソピス属、シノプシス属などの木本種が優占し、ヤシ科のトリスリナックス属、低木のカッパリス属、シヌス属、セルシディウム属などが生育する。ブラジルの中央部にはセラードが熱帯多雨林に隣接して分布する。まばらなイネ科草本群落とキク科のほか、ダールベベルギア属、マチェリウム属などのマメ科の小低木をはじめ、ボンバカ科、ボキシア科、サボテン類などが生育する。カーチンガはセラードよりもさらに乾燥した地域に分布する。セラードと比べると、イネ科草本はいっそうまばらになり、有棘のブロメリア科やサボテン、マメ科のアカシア属、ミモザ属、カエサルピニア属などが生育する。
(4)パラモ、プナ いずれもアンデスの熱帯地域の高地にみられる独特の植生で、パラモは湿性、プナは乾性という違いがある。パラモは3000メートル以上の高地に成立するが、これを特徴づける植物はさまざまである。垂直分布の下部からいうとおよそ次のようになる。まずワインマニア属、ドリミス属などの低木種の分布する地域、さらにエリカ属、キク科(セネシオ属、ディプロステヒュウム属)などの低木種の分布する地域、やがてカラマグロスティス属、スティパ属などのイネ科の草原とウンベリフェラ科、キク科、オオバコ科のクッション植物で覆われる湿った凸地形の地域を経て、イグサ科のディスティチヤ属の優占する沼沢地へと移行する。パラモでは4800メートルが植生限界となる。乾性のプナは4000メートル以上の高地にみられ、ペルー、ボリビア、北部チリ、北西アルゼンチンに広がる。この植生はスティパ属、カラマグロスティス属、フェスツカ属などからなる大草原のほか、巨大なパイナップル科の植物プヤ・ライモンディイによって特徴づけられる。
(5)ノトファグス林 亜寒帯の森林で、チリ北部の乾燥地域に続いて成立するナンヨウスギ科のアローカリア林の南部に分布する。南緯37度付近からパタゴニアまでの地域(途中に亜寒帯降雨林を挟む)にみられるが、北から南へと種を変化させ、大形葉から小形葉へ、落葉性から常緑性へという傾向がある。
そのほか、南アメリカに特徴的な植生としては先に述べたセラードの南に分布するアローカリア属、ポドカルプス属などの優占林、ペルーからチリ北部の沿岸部に生育するティランジア属、プロソピス属、ノラナ属などの植生(ロマス植生)があげられる。
[大賀宣彦]
非常に特異で多様性に富み、動物地理学上は新熱帯区・新熱帯亜区の1区1亜区よりなる新界にほぼ一致し(境界は中央アメリカ地峡)、ほかの2界すなわち北界と南界に対置される。さらに新熱帯亜区は熱帯雨林から温帯草原、砂漠、高地などの多様な環境を含み、アマゾン地方、東ブラジル地方、チリ地方の3地方に区分される。
哺乳(ほにゅう)類のうち約半数の科が固有のものである。地史的にみると、まず北アメリカとの間に中生代に形成された陸橋が新生代の初めにとぎれ、北から入ってきた有袋類、貧歯類、髁節(かせつ)類(原始有蹄(ゆうてい)類)が南アメリカ大陸で独自の適応放散を遂げた。広鼻猿類と齧歯(げっし)類がそれに続いて入り、鮮新世にはアライグマ科、更新世(洪積世)にはネコ科、イヌ科、イタチ科が入って有袋類と髁節類を滅ぼし、それにかわってバク、ペッカリー、シカ類が入ってきた。このように数度にわたる北からの新しい動物群の流入と新旧動物群の交代がおこると同時に、古い動物群の一部(たとえば有袋類のオポッサムや貧歯類)が生き残り、南アメリカの特異な動物相が形成された。
鳥類も約半数の科が固有で、シギダチョウ目はこの大陸に固有、アメリカダチョウ類は近縁種がアフリカにのみ生息し、ハチドリ類は多様に分化して一部が北アメリカにまで進出している。両生類や爬虫(はちゅう)類の一部の科はアフリカおよびオーストラリアと共通し、淡水魚はアマゾン水系を中心に多様化しているが、その主要構成メンバーであるカラシン類はアフリカと共通し、また肺魚類はほかにアフリカとオーストラリアにしかみられない。
[新妻昭夫]
南アメリカの住民の人種構成はきわめて多様である。この大陸の先住民であるインディオ、植民者であるスペイン人とポルトガル人を主体とするヨーロッパ人(白人)、および奴隷として連れてこられたアフリカ人(黒人)の三者を基本に、インディオとヨーロッパ人との混血であるメスティソ、ヨーロッパ人とアフリカ人との混血であるムラートなどの混血人が多数みられる。このほか、19世紀以降、世界各地から移民を受け入れた国が多く、イタリア人、ドイツ人、ポーランド人、日本人、中国人、インド人およびそれらの子孫が居住している。これらの人々の居住地域には歴史や自然環境を反映した地域性がみられる。すなわち、インディオの古代文明が栄えたアンデス地域にはインディオやメスティソが、サトウキビ・プランテーションの労働力として多数の黒人奴隷が導入されたブラジル北東部にはアフリカ人やムラートが、ヨーロッパと気候が類似したブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチン、チリなどにはヨーロッパ人が多い。
このように多種の人種が共存しているにもかかわらず、人種間の差別、偏見は比較的少ない。法律上の人種差別は存在しないし、多くの混血を生じてきたこと自体、皮膚の色や人種形態上の差異に基づく差別や偏見が少ないことの証拠である。ただし、過去の歴史的所産として、人種による社会階層上の差異は厳存しており、上層階級をヨーロッパ人、中間層をヨーロッパ人と一部の混血人が占め、大多数の混血人、アフリカ人、インディオは下層階級に甘んじている。また、農村における大土地所有者と貧農、都市における高級住宅地と膨大なスラムの存在に象徴されるように、住民間の貧富の差は著しく大きい。
南アメリカ諸国の公用語は、ブラジルでポルトガル語、スリナムでオランダ語、ガイアナで英語、フランス領ギアナでフランス語が用いられているほかは、すべてスペイン語である。しかし、多くの地域で公用語と並んでインディオの言語が日常的に使われている。たとえば、ペルーやボリビアの一部ではケチュア語やアイマラ語が、パラグアイではグアラニー語が多用されている。
[松本栄次]
ほとんどの南アメリカ諸国では、農業や鉱業が国の経済の基礎をなしているが、ブラジルやアルゼンチンのように工業化が進展し、新興工業国に数えられるようになった国もある。
南アメリカの農業の一つの特色は、大規模農場における輸出を目的とした商品作物生産が盛んなことである。ブラジルの北東部海岸地方およびサン・パウロ州を中心とした地域のサトウキビ、同じくバイア州のカカオ、ブラジルでは近年ミナス・ジェライス州南部が中心的生産地域になり、コロンビアでも生産量が多いコーヒー、エクアドル海岸地帯のバナナとカカオ、ペルー海岸地方のサトウキビや綿花などが代表的熱帯商品作物である。温帯性作物としては、ブラジル南部諸州から内陸のマト・グロッソ州にかけての大豆、ブラジル南部およびアルゼンチン・パンパの小麦などがある。いずれも各国の主要な輸出品となっている。リャノ、ブラジル高原、パンパなどは、ウシ、ヒツジなどの大規模な牧畜地帯である。このような大規模農業と並んで、アンデス山中におけるジャガイモ、トウモロコシ、豆類の栽培、ブラジル各地におけるキャッサバ、ヤムイモ、米などの多種類の作物の栽培のような、小規模農家による伝統的な自給農業も広く行われている。水産業は、アンチョビーを主体に世界的な漁獲量をあげているペルーのほか、近年、チリやアルゼンチンでも盛んになっている。
南アメリカには鉱産資源の豊富な国が多い。アンデス地域は非鉄金属資源に富み、植民地時代には、金、銀などの貴金属を多産したが、現在では、チリの銅、ボリビアの錫(すず)、ペルーの亜鉛、鉛などの工業用金属と、ベネズエラとエクアドルの石油などが重要な鉱産資源である。大陸東部の古期岩石からなる地域には、ブラジルのイタビラ鉱山やカラジャス鉱山、ベネズエラ南部のセロ・ボリーバル鉱山のような大規模な鉄鉱石産地がある。
1929年の大恐慌を契機として、南アメリカ諸国は、工業製品の輸入を制限して自国の工業化を目ざすという輸入代替工業化政策を進めた。このため、多くの国で工業化が進展したが、その度合いは国によって異なる。大きな国内市場をもったブラジルの工業化が群を抜いており、サン・パウロ、リオ・デ・ジャネイロ、ベロ・オリゾンテの三大都市を結ぶ一帯に、鉄鋼、自動車、電機、化学などの重化学工業を含む多様な工場群が立地している。ブラジルでは、1993年には、総輸出額中の工業製品輸出額の割合が3分の2を超えた。ブエノス・アイレス大都市圏に主要工業地帯をもつアルゼンチンは、工業生産高では南アメリカ第二であるが、重化学工業部門での停滞が目だつ。さらに、産油国として独自の工業開発を進めてきたベネズエラをはじめ、コロンビア、ペルー、チリなどのアンデス諸国でも、それぞれの首都を中心に食品・繊維工業などの軽工業が発達している。
[松本栄次]
『加茂雄三他編『ラテン・アメリカ事典』(1996・ラテン・アメリカ協会)』▽『水野一・西沢利栄編『ラテンアメリカの環境と開発』(1996・新評論)』▽『Hans Weber:Zur Natürlichen vegetationsgliederung von Südamerika. In ‘Biogeography and Ecology in South America, Vol. 2’(1969, Dr. W. Junk N. V. Publishers, Netherlands)』
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