改訂新版 世界大百科事典 「チスイビル」の意味・わかりやすい解説
チスイビル
ヒル綱ヒルド科の環形動物の1種,または他の動物から血を吸うヒル類の総称。チスイビルHirudo nipponicaは日本各地に広く分布し,水田,池,沼などにすむ。体長3~4cmのやや扁平な円柱形で,両端がやや細い。前方背側には5対の小さい眼点があり,背面には緑灰色の縦縞が数本ある。腹面前方の吸盤に開く口の中には3個の半円形のあごがあり,そのあごで人畜の皮膚に傷をつけて吸血する。胃の両側には11対の側育囊があるため,一時に多量の血液を吸うことができる。そのため十分に吸血すると,その後4~5ヵ月間は絶食することも可能である。雌雄同体で,雄生殖口は第11体節に,雌生殖口は第12体節にある。肛門は後吸盤の背面の最後の体環上に開く。
血液を吸うヒルには,あごで傷をつけるほかに,管状の吻(ふん)を動脈や静脈に突き刺して吸血するものもある。ヒルが吸血するときにはほとんど痛みがないが,これはヒルの唾液の中に痛みを消す麻酔剤が含まれているためである。また吸入した血液を凝固させない抗凝血物質も含んでいる。ヒルのこのような性質を利用して1800年代には〈悪い血の吸出し〉として医療用に大量に用いられた。
→ヒル
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報