改訂新版 世界大百科事典 「チャップリンの独裁者」の意味・わかりやすい解説
チャップリンの独裁者 (チャップリンのどくさいしゃ)
The Great Dictator
1940年製作のアメリカ映画。サウンド版の《モダン・タイムス》(1936)に続くチャールズ・チャップリンの最初のトーキー映画。チャップリンの4日後に同じ貧困と無名のうちに生まれ,チャップリンとはいわば正反対の方向に進んで世界制覇の野望に燃えたヒトラーとそのファシズムに対して,チャップリンが〈たった1人の戦争〉をいどんだ作品で,〈時代の歴史〉に対するもっとも痛烈な風刺喜劇として評価されている。
そもそもの着想はイギリスのプロデューサー,アレクサンター・コルダによるもので,その内容が表ざたになると,駐英ドイツ大使の抗議,ヒトラーとゲッベルスからの直接的な圧力をはじめ脅迫状や製作中止勧告が相次いだが,チャップリンは独裁者ヒンケルとユダヤ人の床屋の二役をみごとに演じて,誇大妄想狂の〈独裁者〉の内面をあばいてみせた。〈世紀の6分間〉といわれているこの映画の締めくくりの演説については,露骨な政治的演説であるという批判も加えられたが,それに対してチャップリンは,ヒトラーとナチズムが倒れても世界に平和がおとずれない47年,戦争の非人間性を断罪する《チャップリンの殺人狂時代》を世に送ることになる。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報