改訂新版 世界大百科事典 「チャム族」の意味・わかりやすい解説
チャム族 (チャムぞく)
Cham
インドシナに住むアウストロネシア(マレー・ポリネシア)語系諸族に属する民族。ベトナムのニャチャンからファンティエトにかけての海岸平野やチョドック地方,カンボジアのメコン川流域やトンレ・サップ湖周辺に散在し,杭上家屋に居住して農・漁業を営む。人口は両国の合計で16万人弱。ベトナムのチャム族はおおむね仏教徒,カンボジアのチャム族はイスラム教徒である。2世紀末に中部ベトナム以南の海岸沿いにインド文化の影響の著しい王国チャンパを建て,ヒンドゥー教や仏教を信仰し,中継貿易によって栄えた。10世紀以降中国から独立したベトナムに圧迫され,その南進策によってしだいに領土を奪われて17世紀に滅亡し,少数民族の境遇に落ちて今日にいたった。神殿建築と彫刻に優れた美術を残し,かつてはインドのカースト制を移植した社会を営んだが,トーテム氏族制や母系制など,基層文化の面影も長い間保たれていた。サンスクリットのデーバナーガリー文字を変形した独特の文字を用いている。
執筆者:川本 邦衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報