改訂新版 世界大百科事典 「ツキノワグマ」の意味・わかりやすい解説
ツキノワグマ (月輪熊)
Selenarctos thibetanus
食肉目クマ科の哺乳類。全身黒色で,胸に三日月型の白斑がある中型のクマ。イラン北部からヒマラヤ地方を経て,南はベトナム北部,北はアムールまでに分布する。日本の亜種ニホンツキノワグマS.t.japonicusは,本州に多く,四国,とくに九州には少ない。比較的よく発達した前肢をもつことから木登り能力に優れ,樹上でどんぐりなどを大量に食べる。ヒグマよりずっと小さく,体長130~160cm,尾長8cm前後,体重120kg前後。森林,とくに落葉広葉樹林に好んですみ,草木の根,新芽,花,果実など,もっぱら植物を食べ,動物質は,事実上アリ,ハチ,カニなどの小動物に限られる。寒い地方では,冬,木の洞,岩穴などに入って冬眠し,このとき雌はふつう2子を生む。胆囊は,〈熊の胆(くまのい)〉と称し,健胃剤として珍重される。肉食性の傾向の強いヒグマに比べて,植物食の傾向が強いためかはるかにおとなしいが,突然の出会いなどによる人の被害がわずかながら毎年ある。このための駆除と,天然林伐採による生息域の減少から,近年絶滅の恐れが出ている。
→クマ
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報