翻訳|hibernation
クマやコウモリ、リスなど冬眠する哺乳類も通常は、体温を保つため栄養や酸素を消費して体内で熱を作り続ける必要がある。低温や栄養不足を乗り越えるため、冬眠中は呼吸や心拍の数が減って体温が下がるなど、生命維持に欠かせない代謝を低下させる「休眠」に入ってエネルギー消費を大幅に減らしている。冬眠中に生命を維持する仕組みや、冬眠から回復する仕組みはほとんど解明されていない。人間は自然状態では冬眠しない。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
気温が低く食物も乏しい冬は多くの動物たちにとって,正常な生活を営むのが難しい季節である。とくに変温動物の場合には体温が外気温に並行して低下し,ある限界以下になると,体を動かすことも発育することもできなくなってしまう。したがって眠っているかのように静止して冬を越すのがふつうである。このような状態を一般に冬眠と呼んでいる。しかし実は,たいていの動物はたんに寒気によって活動や発育が抑えられているのでなく,あらかじめ冬のくることを何らかの手がかりによって知り,寒さと絶食に耐える生理状態(すなわち休眠)となって冬を迎えるのである。昆虫が冬眠に入る発育段階はエンマコオロギでは卵,ニカメイガでは幼虫,ナミアゲハではさなぎ,ナナホシテントウでは成虫というように,種によって一定している。それは休眠する発育段階が遺伝的にきまっているからである。その段階に達すると,まだ冬までに間があってもはやばやと休眠してしまう種があり,また秋になって日が短くなるとそれに反応して休眠に入る種もある。
休眠前に,昆虫たちは体内に栄養物質を蓄え,また寒さに耐える生理機構を作りあげる。冬を越すために積極的な生理の切換えがなされるのである。越冬にさいして昆虫は休眠によって自律的に発育を停止するだけでなく,代謝を抑えてエネルギー消費を極端に減らし,さらには凍結防止の効果をもつ物質(グリセリン,トレハロースなど)を体内に多量に蓄積する種もある。そのために木の枝などについて吹きさらしの状態で越冬していても,厳冬期に凍結することはなく,いわゆる過冷却状態にある場合が多い。ある種のガの卵では-51℃の過冷却点が記録されている。これとは逆に細胞外の体液に氷晶を形成し,体組織そのものの凍結を防いで冬を越す昆虫もある。しかし温度変化の少ない地中で越冬する昆虫は,体表の保温効果に依存していて耐寒性はさほど強くない。
冬眠は変温動物だけでなく,小型の哺乳類とくに食虫類(ハリモグラ),翼手類(コウモリ),げっ歯類(リス,ヤマネ)にも見られる。体が小さくて,体容積にたいする表面積の割合が大きいこれらの動物たちにとって,低温期には体温の保持が困難で,むしろ活動を停止して冬眠するほうが生存上有利であるために,このような適応戦略が進化したのであろう。冬眠期が近づくと,それまで一定であった体温が低下しはじめ,ついには外温と大差がないところまで下がってしまう。呼吸量が活動期の1/50以下になり,心拍数は1分間にわずかに2~3回に下がったという報告がある。これらの動物においても,寒さのために体温調節の能力が失われたというのではなく,神経-内分泌系の作用によって体温調節機構の作動する温度(設定点)が切り換えられ,体温が下がるのだと考えられている。なおクマやスカンクの冬ごもりは真の冬眠ではなく,睡眠状態に近いものである。要約すれば,冬眠とは動物たちにとってもっとも有利な状態で冬を越す適応戦略の一つなのである。
執筆者:正木 進三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物が活動をほとんど停止したまま冬を越すこと。夏眠に対する語。多くの陸生変温動物と一部の恒温動物でみられる。カエル、イモリなどの両生類やヘビ、トカゲ、カメなどの爬虫(はちゅう)類は、地中、石や倒木の下、水底の泥中などの温度があまり下がらない所へ移動し、環境温度の低下にしたがって体温が低下して冬眠に入る(ただし、夏に低温にさらしても冬眠状態にならない)。冬眠する爬虫類では、冬眠前に摂食をやめる。目覚めは受動的に暖められることでおこる(カエル型冬眠)。コウモリ類、ヤマネ、ハリネズミなどの哺乳(ほにゅう)類は、洞穴や樹洞や地中で冬眠し、体温は0℃近くまで下がるが、ある限度以下にはならない。コウモリでは環境温度が零下2℃、ヤマネでは零下7℃以下になると、体温は逆に上昇して冬眠から覚める。このように熱調節は行われていて、いわばサーモスタットの温度調節の目盛りを低くあわせたようになっている。この型(コウモリ型冬眠)を真の冬眠とする場合がある。クマは斜面に土穴を掘って冬ごもりをするが、体温低下はわずかで眠りも浅く、すこしの刺激で目覚める(クマ型冬眠)。鳥類では北アメリカのチビアメリカヨタカが例外的に冬眠する。節足動物ではカエル型の冬眠をするものと、休眠という特殊な状態で冬眠するものがある。冬眠中は体温、酸素消費、呼吸速度が低下して、代謝活動が低くなっており、エネルギー消費の節約になっている。寒さと食物不足という不利な冬の時期を生き延びるための仕組みと考えられる。
[小野山敬一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…夏は生命の営みが頂点に達する季節だが,この時期に活動を停止して秋を待つ動物たちがある。その状態は冬眠と似ているので夏眠と呼ばれる。昆虫の中ではフユシャク類のさなぎに典型的な例が見られる。…
…そのような場合,発育・活動を停止し,体内に栄養物質を蓄え,呼吸量を極端に減らして消耗を防ぎ,好適な季節の再来を待つ。この状態は広義の休眠dormancyといわれ,冬眠や夏眠もこれに含められる。しかし生物は単に外界条件の直接作用によってではなく,むしろ積極的に生理状態を切り換えて活動を停止し,不適当な時期をのり切っていることが多く,ふつうこのような場合を厳密な意味の休眠diapauseと呼ぶ。…
… 変温動物では,外温が極端に低くなると,体温もそれにともなって下がるため,物質代謝速度がひどくにぶり,正常な生活活動ができなくなって休眠状態になる。これが爬虫類,両生類,節足動物などにみられる冬眠である。一年中高温の続く熱帯地方は,変温動物にとっては好適な生息地であり,分布する種類も個体数も多いが,熱帯でも厳しい乾季のある地方では,乾燥にたいする適応として夏眠の現象がみられる。…
※「冬眠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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