改訂新版 世界大百科事典 「ティブ族」の意味・わかりやすい解説
ティブ族 (ティブぞく)
Tiv
西アフリカ,ナイジェリアのベヌエ川上流の両岸に住む部族。人口は約80万。ニジェール・コンゴ語派に属するベヌエ・コンゴ語を話す。生業は農業で,主要な作物はヤムイモ,シコクビエ,モロコシ。男が畝を作り,畝にヤムを植えつけるのは男女双方である。畝のそばにほかの作物を植えること,および除草と収穫は女の仕事とされる。輪作を行い,ヤム畑は翌年はシコクビエの畑となる。3年ほど耕作した畑は地力が回復するまで数年間は休閑地にしておく。ヤギ,羊,犬(食用としても),鶏の飼育は盛んだが,牛はツェツェバエのために飼えない。狩猟,採集,漁労も広く行われるが,食料としての比重は小さい。小規模な定期市が開かれ,物々交換のほか議論や紛争解決の場として,また社交の場として機能する。一夫多妻婚によって拡大家族が形成され,そのコンパウンド(屋敷)内には,一族の長である長老の家と来客用の家を中心に,彼の妻たち,既婚の息子たち,長老の弟たちの家族それぞれの家がたち,また長老の友人が寄留することもめずらしくない。長老はこの父系的拡大家族の長として,成員間の紛争を調停し,生産を監督する。
社会組織は父系リネージに基づいており,リネージの全成員は共通の父系的祖先をもつ。一つのコンパウンドは一つのリネージをなしていると考えてよい。こうした地縁的な親族集団はそれぞれ平等な力関係にあり,政治的,軍事的な必要に応じて複数のリネージが集結する。親族集団のほかに,年齢階梯に基づく集団,友人関係に基づく集団などが存在する。ティブ族全体の上に立つ首長は伝統的には存在せず,政治的決定はコンパウンドの長すなわちリネージの長老が行っていた。しかしイギリス政府は1948年,ティブ族社会に最高首長制を導入した。現在はティブ族の大半がキリスト教かイスラムを信仰しているが,部族宗教も根強く残っている。
執筆者:松園 万亀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報