日本大百科全書(ニッポニカ) 「テコドントサウルス」の意味・わかりやすい解説
テコドントサウルス
てこどんとさうるす
thecodontosaur
[学] Thecodontosaurus antiquus
竜盤目竜脚形類(亜目)古竜脚類(下目)に属する恐竜。イギリスの三畳紀後期、約2億1650万年~1億9960万年前の地層から産出した、もっとも原始的な古竜脚類。全長約2メートルと、ほぼ同時代に出現してきたプラテオサウルスと比べると小形で軽く、きゃしゃなつくりを示す。頭と目が比較的大きい一方、鼻孔が小さく、嗅覚(きゅうかく)より視覚のほうがより重要であったようである。歯列が短く、あごの関節が上顎(じょうがく)歯列より少しだけ下の位置にあるため、上下のあごは鋏(はさみ)のような開閉様式をとっていた。つまり、上顎と下顎の奥歯どうしがまずお互いにすれ違い、あごを閉じ続けるにつれて、かみ合せがしだいに前方へ移動する。そのため、どの時点でもかむ力は狭い範囲にしかかからなかった。これは咬合(こうごう)点では食物により強い力が加わったことを意味するので、より抵抗力のある食物を処理していたことを示す。両あごが比較的短かったことも、これを裏書きしている。歯は植物をかみ切るように、縁に切れ込みのある木の葉型のものをもっていたが、あごの構造が鋏方式なので、狭い範囲に力を集中したかみ切り方をしたのではないだろうか。属名は「槽歯(そうし)のトカゲ」を意味し、この恐竜の各歯があごのソケットに収まっている状態を表す。この特徴はすべての恐竜を含む主竜類(恐竜、翼竜、ワニ、ラゴスクス類などを含む上位の大きなグループ)にみられる特徴である。前肢は短めで、機能指が4本、第1指に鉤(かぎ)づめがあった。後肢のほうは長い4本の機能指をもつので、まったくの二肢歩行であったかもしれない。二肢歩行の古竜脚類の連続歩行跡が知られている。本属の化石のほとんどは、当時の乾燥した石灰岩台地の峡谷や洞窟(どうくつ)に堆積(たいせき)した地層から発見されている。おそらくテコドントサウルスは、このような高地の洞窟付近に生息していたのであろう。雨期の洪水によって死体や骨が洞窟内に流れ込み、三畳紀の堆積物の中へ封じ込められ、すっかり覆われてから化石となったのである。
[小畠郁生]