改訂新版 世界大百科事典 「ディエン高地」の意味・わかりやすい解説
ディエン高地 (ディエンこうち)
Dieng Plateau
インドネシアのジャワ島中部,ジョクジャカルタの北西約120kmにある標高2060mのカルデラ。約2km四方にわたって,ヒンドゥー・ジャワ期すなわち7世紀から13世紀に及ぶ石造のヒンドゥー教寺院跡が点在していることで有名である。ディエンとはサンスクリットで〈神々の座〉を意味し,サンジャヤ王に始まる古マタラム王朝ゆかりの聖地である。1864年以来数度にわたって発掘調査され,その結果809年から1210年にいたる碑文や神像,会堂や住居の遺構などが発見された。アルジュナ・グループと呼ばれる5棟の小堂が中央部にあるが,建築様式からみて,5棟のうちセマール,アルジュナ,スリキャンディは8世紀初めの建築,プンタディボ,スンバドラはやや遅れると思われる。その少し南にさらに2棟の小堂(ガトットカチャ,ビマ)があり,北にダラバティと呼ばれる小堂がある。これらの堂の名称は叙事詩《マハーバーラタ》からとられ,建築技術とともに南インドのパッラバ朝のマハーバリプラムあたりから移入したものと思われる。多くの堂の平面は4m内外の正方形の主室に入口と階段突出部の付いた凸字形である。基壇の高さは約1.5mあり,壁面や屋根の立面も縦長である。約10cm厚の安山岩の切石を積み上げ,その表面に彫刻を施し,しっくいを塗り彩色をしていたらしい。石積みと細部の技術は明らかにボロブドゥールやプランバナンより古い系統を示している。この一帯には硫黄泉が噴き出し,ガスが立ちこめている。そこに神秘を感じ,ヒンドゥー建築書に基づいて立地を選んだものと思われる。現在は近くで小規模の硫黄採取がなされ,100戸程度の住宅も建っており,遺跡を含む歴史的環境の保存整備の必要がでてきている。
執筆者:野口 英雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報