インドネシアのジャワ島中部,ジョクジャカルタの東方15kmにある村。その中心にはロロ・ジョングランLoro Jonggrang(別名チャンディ・プランバナンChandi Prambanan)と呼ばれる優れたヒンドゥー教寺院遺跡があり,世界的な仏跡ボロブドゥールとともに双へきをなす。また宮殿のあったラトゥボコの丘や仏教寺院のカラサン,セウ,サリ,プラオサンなど約30の寺院遺跡(チャンディ)が点在している。なかには1960年代に地下5mから発見されたヒンドゥー教寺院サンビサリの例もある。
チャンディ・プランバナンは850年ころ古マタラム王朝のピカタン王によって建設された。この王の名はシャイレンドラ王朝の妃の名とともにプラオサン寺院の碑文にもみられ,またラトゥボコ丘に宮殿を定めた可能性もある。そこから仏教を信仰するシャイレンドラ王家とヒンドゥー教を信仰するマタラム王家との婚姻関係が想定され,さらに建築のうえにも仏教とヒンドゥー教の重層信仰の現象が読み取れるなど,これらの遺構は古代史の解明に重要な手がかりを提供する。チャンディ・プランバナンは16世紀半ばの大地震で破壊され,一部を除いて著しく変化してはいるが,原形を想定することは難しくない。すなわち東を正面にして3重の正方形の寺苑からなる。内苑は110m四方で,中央にシバ神,その南側にブラフマー神,北側にビシュヌ神にささげられた三つの堂,その東側にシバの乗物ナンディ,太陽神スーリヤ,月神チャンドラの像を安置する堂,さらにその南北に各1堂ずつ,合計8堂を囲んでいる。さらに八つの方位にも小堂が配置されて,聖なる内苑を守っている。その外側の中苑は222m四方で,その中に王族や村々の有力者の奉献した224棟の小祠堂が,仏教寺院のセウやプラオサンによく似た配列で四周を巡っている。そしてこの外側に約10度東に傾いて配置された,一辺390mの外苑がある。このゆがんだ配置の理由は,建設工事に先立って,敷地の中央を流れていたオパック川を西に移動したためである。内苑中心の堂であるシバ堂は34m四方の平面を几帳面に切り,堂々とした基壇上には主堂の回りを回廊が取り巻いている。主堂は高さ47mで,6層に分かれ,塔形飾り(ラトナ)と壁龕(へきがん)で飾られ,それによって実際より直立に近い印象を与え,一体となって天にそびえる幻想的な外観を呈している。この主堂の4面にはシバ・マハーデーバ神を祀る東面の主室と,北面に妻のドゥルガー,西面に息子のガネーシャ,南面にシバ・グルーを祭る4室がある。シバ・マハーデーバはピカタン王に,ドゥルガーはロロ・ジョングラン姫にあてられており,これらの神像は他の場合と同様にきわめて写実的で美しい。また堂外を巡る回廊の欄楯壁面には,42面にわたって上下2段に《ラーマーヤナ》の物語が浮彫されている。この彫刻はさらに南隣のブラフマー堂の30面にもつながっている。
ボロブドゥールと同様にプランバナンも安山岩による組積造ではあるが,構造技術のうえからは垂直に近い石積みや,比較的大きい内部空間など,ボロブドゥールよりはやや高度であるとみられる。しかしまた火山性の地震の多いこの地方では技術的な限界もあり,そのため破壊もはなはだしかった。修復工事は1937年に始められ,中心のシバ堂はスカルノの命によって53年に修復工事が施され,20年を費やして完成した。他の堂群の修復は80年代にも続けられている。さらに82年のボロブドゥールの修復の機会に,プランバナン寺院を取り巻く地区でも77haにわたる国立歴史公園などの計画が実施に移された。この計画には日本をはじめ各国から国際協力の手が差し伸べられ,地域の振興と相互理解の増進に役立っている。
執筆者:野口 英雄
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インドネシア、ジャワ島中部の古都ジョクジャカルタの東約15キロメートルにある集落。付近一帯の地には8~9世紀に栄えたヒンドゥー教と大乗仏教の遺跡が多数現存し、それらを総称して俗にプランバナン遺跡とよび、インドネシア政府もこの地域一帯を「プランバナン国立史跡公園」とする計画を進めている。遺跡群の中心的存在はチャンディ・ロロ・ジョングラン(チャンディとはインドネシア語で古社寺の意。チャンディ・プランバナンともいう)である。47メートルの尖塔(せんとう)を中心主堂とする大小240棟の堂宇からなる壮大な遺跡で、東南アジアの宗教建築史上でも、最重要な遺構の一つである。
[千原大五郎]
『千原大五郎著『インドネシア社寺建築史』(1975・日本放送出版協会)』
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