デクリオネス(その他表記)decuriones

改訂新版 世界大百科事典 「デクリオネス」の意味・わかりやすい解説

デクリオネス
decuriones

ローマ時代の地方都市における参事会員の名称。単数形ではデクリオdecurioである。通常,都市参事会は100人によって構成され,5年ごとの戸口調査の際に財産(10万セステルティ以上),年齢(25歳以上),身分(都市政務官経歴者),声望に応じて選出されて改編された。地方都市の自治行政が広く認められた時代にはデクリオネスは名誉ある身分であった。彼らは,都市民会決議を確認し,上級官吏への助言,刑事裁判所の役割を果たした。帝政期になって都市民会の機能が弱まると,都市財政,請願代表団の派遣,栄誉奉納決議から民衆への労働機会・穀物給付まで,都市のさまざまな公生活に責任を有するようになった。しかし,元首政期後半に皇帝権が都市の自治行政に介入してくるにつれて,デクリオネスの身分は低下し,とりわけ,この身分が帝国による都市に対する課税に責任をもったことから,富裕市民にとって重荷となった。このため,ディオクレティアヌス帝の時代にはこの身分(この頃はクリアレスと呼ばれることが多い)は世襲化され,コンスタンティヌス帝によって世襲制度が強化されたが,この身分を逃れようとして故郷の都市を逃亡する者が後を絶たなかったと伝えられている。このような地方都市における富裕市民の衰退はローマ帝国没落の一因と考えられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「デクリオネス」の意味・わかりやすい解説

デクリオネス
でくりおねす
decuriones ラテン語

古代ローマの都市参事会員。原則として都市の政務官経験者から5年ごとの戸口調査の際に補充され、その職は終身であった。都市参事会員の数は都市の規模により異なっていたが、彼らが政務官の顧問団を形成し、都市の公生活を統制した。都市の行政・財政、ローマや属州総督への代表団や請願団の派遣、あるいは名誉を表彰する布告などは彼らが行った。都市参事会員はまた、都市が帝国に対して支払わなければならない税を徴収する責任を負い、不足が生じた場合には個人的に負担しなければならなかった。この負担がしだいに重いものになるにつれて、都市参事会員の職は富者の世襲的な免れることの許されない義務となり、彼らは統治階級から、クリアレスとして知られる税徴収者階級へと変質した。都市は財政のかなりの部分を都市参事会員からの寄付に依存していたため、都市参事会員層が没落したことは、都市の衰退、都市制度の崩壊へとつながった。

[市川雅俊]

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世界大百科事典(旧版)内のデクリオネスの言及

【クリアレス】より

…ローマの領土的拡大による植民市,自治市の建設の際に,都市の住民団編成の下部単位としてもクリアが用いられている。帝政期には,属州都市の公職者を選出する都市評議会を指す言葉としてクリアが使われることが多くなり,評議会員をクリアレス(あるいはデクリオネス)と呼んだ。彼らが国家の徴税に対する責任を負っていたことから,都市の有産階層のなかにはクリアレスの地位を嫌忌する者もしばしば出現したので,やがて強制的な世襲身分となった。…

【ローマ】より

… 属州においては村落の都市化や都市へのローマ的制度・外観などの導入など〈ローマ化〉が進んだ。帝国の繁栄とは属州諸都市の繁栄で,都市参事会員(デクリオネス)を務める大地主層の経済的負担で都市の行政や美化が進められたが,そのため都市財政が悪化するものも現れた。皇帝が属州都市の繁栄に精力を注いでいるさまは,トラヤヌスとビテュニア総督小プリニウスとの間の125通に上る往復書簡や,〈旅行皇帝〉といわれたハドリアヌスの努力から十分に知られる。…

※「デクリオネス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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