イギリスの朝刊全国紙。1896年、アルフレッド・ハームスワース(後のノースクリフ卿(きょう))が中小商店主、事務員、職人などの中流層や労働者、女性を対象に、「半ペニーで買えるペニーペーパー」「忙しい人の日刊紙」などの触れ込みで創刊した。サイズが小さくて読みやすく、価格も半ペニーと廉価で、内容も記事は簡潔、女性向けの話題が豊富で、海外ニュースの報道にも力を入れた。反響は上々で、創刊号は約40万部が売れ、当時としては驚異的な数字を残した。その後、1898年には50万部に、1900年には100万部に達するなど、大衆向けの新聞として大きな成功を収めた。その一方で、販売と広告から収入を確保することによって政党の補助金を排し、言論の自由を確立した。創刊者のA・ハームスワースは、その後、『ウィークリー・ディスパッチ』の買収と日曜紙への転換、女性向けの日刊紙『デーリー・ミラー』の創刊(1903)、雑誌や地方紙の系列化などによって、一大新聞王国を築いた。編集・経営の両面で、企業としての新聞社のモデルとなり、新聞界に革命をもたらした存在である。同紙を所有するのはデーリー・メール・アンド・ジェネラル・トラスト(DMGT)社であり、発行事業はその傘下のA&Nメディア社の子会社であるアソシエイテッド・ニューズペーパー社が担っている(2011)。メディア・グループ全体では世界に200以上の紙とオンラインの新聞、雑誌、放送などを擁する。DMGTはこのほか、リスク・マネジメント、BtoB情報、機関投資家向け情報、展示会・イベント、金融・法律・エネルギー関連の国際情報提供等々の事業本部があり、総売上高は円換算で約3000億円、従業員1万6000人の規模を有する。近年の部数は、1990年代前半から上向きに転じ、2003年には251万部とピークに達したが、それ以降は低下傾向になり、2011年時点で213万部である。ただ、部数の減少は他に比べれば緩やかといえる。ウェブ版『メール・オンライン』は1日平均のアクセス数がイギリスのトップである。
[橋本 直]
イギリスの大衆紙。ノースクリッフにより1896年創刊された。8ページ建てで,紙代は破格の1/2ペニーであった。1面は広告にあてる伝統の型を守りながら,要約した簡潔なニュース記事を多くもり,おもしろい読物を入れ,保守派はオフィスボーイによって書かれたオフィスボーイのための新聞と酷評したが,世紀末急速に増えつつあった新中間層を基軸とする新読者層の要求にこたえる大衆朝刊紙となった。創刊号は40万部近く売れ,3年後には50万台,4年後には70万台と急上昇した。営業収入の比重を販売収入より広告収入に移し,部数を公認会計士に監査させ,それを紙上に公表して広告主の関心を集めた。また株式会社にして資金を集めるなど,20世紀大衆新聞の経営上の原型のほとんどを確立した。1922年ノースクリッフの死後,所有権は弟のハロルド・ロザーミアH.Rothermereに移り,24年170万部,29年には190万部と,1920年代にはイギリス新聞界の首位の座を占めつづけた。第2次大戦後,ロザーミアの次子ハームズワースVere Harmsworthが継承し,社名をアソシエーティッド・ニューズペーパーAssociated Newspaperとした。67年には225万部に達したが,以後は下降をたどり,71年《デーリー・スケッチDaily Sketch》を吸収合併,この時期ロザーミア2世のあとを継いだ3世は大改革にのり出し,70年代に高級紙と大衆紙の中間を狙う中級紙に変質,定着した。80年に夕刊紙《イブニング・スタンダード》を買い,82年に日曜紙《メール・オン・サンデー》を出して現在に至る。部数は依然として200万前後である。
執筆者:香内 三郎
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…日本との対比で特色をあげれば,まず第1に新聞が歴史的な階層構造を反映して,《タイムズ》《ガーディアン》などの〈高級紙(クオリティ・ペーパー)〉と,政治経済などの堅い話題,難しい議論にはできるだけ触れず,犯罪,スポーツ,性など娯楽的情報に力点をおく,《サン》《デーリー・ミラー》などの〈大衆紙popular paper∥mass paper〉とに截然と分かれていた点である。だが1970年代からは《デーリー・メール》,《デーリー・エキスプレス》の2紙がその中間を志向する中級紙として再出発し,現在は3層構造となっている。さらに,第2次大戦後は,マス・メディアのあり方(制度,内容,経営)について,議会の〈王立委員会Royal Commission〉を軸にして徹底した調査・検討,改善案の提出がなされ,公表される報告書を土台に,それなりに〈大衆的〉な討論,改良への〈合意〉形成の努力が続けられていることも大きな特色である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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