日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウフルー」の意味・わかりやすい解説
トウフルー
とうふるー / 豆腐乳
醤豆腐(ジャントウフ)、乳腐(ルーフ)ともいい、中国の重要な発酵食品の一つ。日本では乳腐(にゅうふ)と称している。欧米では中国チーズChinese cheese、植物チーズvegetable cheese、大豆チーズsoybean cheeseといっているが、チーズの臭みはない。豆腐を発酵させてつくった特殊な調味食品で、豆腐のもろみ漬けのようなものである。なお、酒、みそ、しょうゆなどの調味料を豆腐乳の表面に加味し、徐々に熟成させていくと風味がさらによくなる。豆腐乳の中のタンパク質(約16%)がほとんどアミノ酸に変わり、脂肪含有量(約20%)も高くなる。中国における豆腐乳の製造は魏(ぎ)(220~265)の末葉と伝えられ、一般家庭にごく普通の自家製品であったが、現在はおもに専門製造工場が瓶詰で大量生産している。
ダイズを普通の豆腐作りより強く圧搾し、含水量の少ない硬度を高めた豆腐をつくる。硬さはだいたいチーズと同じくらい。規格はいろいろあるが、商品にするのは長さ2センチメートル、幅3センチメートル、厚さ3センチメートル、重さ10グラムくらいの豆腐塊(トウフコワイ)を材料に用いる。伝統的作り方はまず豆腐胚(はい)を製造する。藁(わら)を敷いた蒸籠(せいろう)の中に、豆腐の表面を乾かしたものを、2~3センチメートル間隔に並べる。部屋の中の乾いている土の床に稲藁を敷き、蒸籠を10層くらい積み重ね、最上の1層をさらに稲藁で覆って保温する。稲藁に付着するケカビ属Mucorの菌を約30℃の温度に維持すると、自然に発酵が行われる。7~9日間たち、灰色の菌が豆腐塊に半円形のように覆うと発酵は完了し、いわゆる豆腐胚ができあがる。発酵した豆腐胚表面の菌糸を軽く押さえ付け、天日にさらして、甕(かめ)に移す。その際まず甕の底に食塩1層をまき、ていねいに豆腐胚を並べて1層とし、その上にふたたび食塩を敷き、このパターンを甕いっぱいになるまで繰り返す。最上の一層にも食塩をかぶせる。塩の用量は豆腐乳の重量の20%にする。3~4日間後、甕から取り出して、水で洗い、味つけをする。塩漬けだけで熟成を完了する製品もあり、この場合の塩漬け期間は1か月以上必要で、清塩乳腐(チンイエンルーフ)とよばれる。
塩漬けした豆腐胚はもろみに漬け込んで熟成させる。このもろみの種類によって、豆腐乳の製品の味や品質が違う。もろみの種類にも地域により、次の3種類に分けている。
(1)穀類を材料に用いる酒もろみを主体にするもの、(2)ムギとダイズでつくったみそ、しょうゆ風のもろみ、(3)酒精、調味料などを混ぜて合成したもろみ。
熟成した豆腐乳は必要な数を甕から取り出して使う。多くはみそに似た風味があり、朝食の粥(かゆ)によくあう。
[鄭 耀 星]