日本大百科全書(ニッポニカ) 「トキソホルモン」の意味・わかりやすい解説
トキソホルモン
ときそほるもん
toxohormone
ヒトのがん組織の中に存在する肝カタラーゼの活性を低下させる因子のことで、1948年(昭和23)中原和郎(わろう)(1896―1976)によって分離され、トキソホルモンと命名された。がん組織を水で浸出し、蒸発濃縮ののちアルコールを加えて沈殿させ、さらに乾燥後、エーテルで洗って得られたものである。トキソホルモンは、悪性腫瘍(しゅよう)が全身に与える影響として有名な悪液質の原因の一つとして知られている。ヒトの腫瘍においてトキソホルモンが確かめられたのは肝細胞がん(ヘパトーマ)、肺がん、白血病の脾臓(ひぞう)などである。がん細胞は、その種類に関係なく、いずれも類似した生化学的パターンを示し、がんを有する生体(担がん生体)の肝臓における酵素パターンは、がん組織のそれと類似しているという腫瘍生化学の基本的な法則がある。こうした法則に基づいて、担がん生体の現象が検索されるわけであるが、肝カタラーゼの低下、胸腺(きょうせん)の退縮、免疫能の低下、貧血、血清鉄の低下、肝プロトポルフィリンの増加、血中フィブリノゲンの増量などといった諸現象は、いずれもトキソホルモンの活性と関連していることが確かめられている。
[渡辺 裕]