(読み)ドク(英語表記)poison

翻訳|poison

デジタル大辞泉 「毒」の意味・読み・例文・類語

どく【毒】[漢字項目]

[音]ドク(呉)
学習漢字]5年
生命や健康を害するもの。「毒殺毒蛇毒素毒薬煙毒解毒げどく鉱毒消毒胎毒丹毒中毒病毒服毒防毒猛毒有毒
害を与える。ひどくそこなう。「毒手毒舌毒婦害毒

どく【毒】

健康や生命を害するもの。特に、毒薬。「夜ふかしはからだにだ」「を仰ぐ」
ためにならないもの。わざわいになるもの。害悪。「目の」「青少年にはとなる雑誌」
人の心を傷つけるもの。悪意。「のある言い方」
毒口どくぐち」の略。
「やいのっそりめと頭から―を浴びせて呉れましたに」〈露伴五重塔
[補説]書名別項。→
[類語]猛毒有毒毒素毒性毒気毒物毒薬劇薬

どく【毒】[書名]

立松和平の長編小説。副題は「風聞田中正造」。足尾銅山鉱毒事件を主題とする。平成7年(1995)から平成9年(1997)にかけて「日本農業新聞」に連載。単行本は平成9年(1997)刊行。同年、第51回毎日出版文化賞受賞。

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精選版 日本国語大辞典 「毒」の意味・読み・例文・類語

どく【毒】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 健康を害し、生命を危うくしたり奪ったりするもの。
    1. [初出の実例]「鶯姫は竹林の子葉也。毒の化女として一人の心を悩す」(出典:海道記(1223頃)蒲原より木瀬川)
  3. 毒薬。
    1. [初出の実例]「毒も変して薬となる」(出典:観智院本三宝絵(984)中)
    2. 「彼奴等が物にされる様な事では、誠に飴に包んだ毒を喰ふ様なものではござらんか」(出典:交易問答(1869)〈加藤弘之〉下)
  4. 用い方や接し方などによって災いや害悪となるもの。ためにならないものごと。害毒。
    1. [初出の実例]「それはわるいぞ目の毒ぞ」(出典:古活字本荘子抄(1620頃)三)
    2. 「夜風身のどく、内ござれ」(出典:歌謡・松の葉(1703)一・比良や小松)
    3. [その他の文献]〔書経‐盤庚上〕
  5. 人を刺激し傷つける悪意、また、それを含んだ態度や言動。
    1. [初出の実例]「梶原が塀にはどくを書ちらし」(出典:雑俳・柳多留‐二(1767))
    2. 「あれで腹の中は毒のない善人ですよ」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「毒」の意味・わかりやすい解説

毒 (どく)
poison

狭義にはきわめて少量でも生体に有害な,あるいは生命にかかわる作用をもつ物質をいい,一般に毒物と呼ばれている。ただし日本の法律でいう毒物とは〈毒物及び劇物取締法〉によって厚生大臣に指定された物質をいい,黄リン,四アルキル鉛,無機シアン化合物(青酸カリなど),水銀化合物ヒ素化合物,クラーレ,ニコチンなどを含有する製剤がこれに該当する。広義には生体に有害な作用をもつ物質全般を指す。多くの化学物質は生体に取り込まれる量によって有害作用をもつので,この意味では医薬品や食塩なども量によって毒となるといえる。また毒はときに物質ではなく有害作用を指すこともある。なお,すべての毒を網羅する統一的な分類はないが,おもな分類のしかたを表に掲げる。

有害作用に関する物質の特性を毒性といい,〈この物質には強い毒性がある〉とか〈毒性がない〉などと表現される。毒物は毒性がきわめて強い物質といえる。毒性は一般に急性毒性と慢性毒性とに分けられる。たとえば青酸カリやフグ毒のように1回の摂取でもみられる毒性を急性毒性といい,鉛や発癌物質のように長期にわたる摂取の結果,徐々に現れる毒性を慢性毒性と呼ぶ。このような毒性を現した生体の重篤な状態または現象を急性中毒および慢性中毒という。

毒薬とは毒性が強く,〈薬事法〉により厚生大臣に指定された医薬品をいう。毒薬指定の基準は,(1)急性毒性として動物の50%を死亡させる用量(LD50)が,経口,皮下,静脈内(または腹腔内)投与で体重1kg当りそれぞれ30,20,10mg以下のもの,または,(2)動物実験で慢性毒性(薬物投与期間が通常6ヵ月ないし2年)または亜慢性毒性(1ヵ月ないし3ヵ月)が強く,あるいは安全域(薬効量と致死量の差)が狭いもの,または,(3)臨床的に薬効量と中毒量が接近し,有害作用が強く,またはそのおそれが強いもの,とされている。

 毒薬に指定されているおもな医薬品には,アコニチンジギタリス配糖体,ツボクラリン(クラーレ),ニコチン(含有10%以下の製剤は除外),フグ毒,モルヒネ,黄リン,特定のシアン化合物,特定の水銀化合物などの製剤がある。
劇薬 →毒薬

高い毒性をもつ生物起源のタンパク質構造を有する物質をいい,抗原性(生体に特定の抗体を産生させる特性)をもつという特徴がある。毒素としては,たとえばジフテリア菌ボツリヌス菌などの細菌毒素あるいはヘビ毒などの動物毒素がよく知られている。これらの毒素は抗体によって無毒化されるため,侵されたときの救急治療薬として抗血清がつくられている。

すでに簡潔に述べたけれども,毒性とは,いろいろの化学物質が生体と反応して,その組織や器官に障害を現すその物質の特性または好ましくない反応をいう。医薬品やその他の化学物質が,服用,注射,吸入や環境内での曝露などにより,生体に接触した場合の毒性は,その物質や体内で代謝を受けて活性の大きくなった活性代謝物質が生体の構成成分と相互作用することにより発現するもので,障害を起こす化学物質が生体の作用部位で生体成分と種々の型で結合して,細胞膜や構成物の機能的あるいは形態的障害,ホルモン,ヒスタミンなどの生理物質の分泌阻害や亢進を起こしたり,酵素の阻害を現す。このような場合の生体成分と毒性発現物質の結合は一過性で,障害も可逆的であることが多いが,ある特定の化学物質の結合は不可逆性のもので,生体の障害も長期間にわたり,また重大な変化を起こす場合もみられる。

 化学物質による毒性発現は,生体と接触した部位に限られるものを局所毒性といい,さらにその部位から吸収されて全身に及ぶ障害を現すこと(全身毒性)があり,また特定の器官に限って障害が現れる場合(肝臓毒や腎臓毒など)は臓器毒性を現すという。その障害は,刺激,炎症,壊死や腫瘍形成などさまざまな形をとるが,同じ物質が生体に作用しても,いろいろな条件で,その毒性発現や程度は大きく左右される。

 医薬品や化学物質による毒性の発現には,それらの物質の量が最も重要な変動要因の一つである。生体に適用または接触する用量を低用量から始めて漸次増加させていくと,一定量以下の範囲では障害がまったく現れることがなく,この範囲を無作用量域(無影響量域)といい,生体に対する毒性は問題にならないが,さらに用量を増していくと,医薬品としての効果がみられる薬用量域があり,さらにその上の量では効果が強くなり過ぎたり,あるいは適用した化学物質に由来する各種の毒性が現れる中毒量域に入り,最終的には致死量に達する(なお,一定の条件下で動物に死をもたらす最小量を最小致死量MLD(minimum lethal doseの略)といい,また動物群のうちの半数に死をもたらす量を50%致死量LD50(lethal dose 50 per centの略)というが,現在,毒性の強弱を知るうえでは,LD50の値が基準となっている)。

 また,物質の生体体液(血液,リンパや消化液)への溶解性も毒性を大きく左右するもので,通常溶解度の大きなものほど生体細胞や組織,器官への障害も大きい。さらに原因物質を溶解し組織と反応させる媒体を加温したり,生体の体温が上昇している場合には毒性が強くなり,冷却により反応の発現時間も延長し,毒性の低下を起こすのが通例である。環境温度の上昇も,化学物質の毒性発現を強める要因となる場合がある。生体と接触するときの化学物質の濃度も発現に影響を現し,局所からの吸収が良好な場合には,濃度の大きいものほど毒性が強く現れる。同様に,同じ化学物質でも,その生体との接触経路が変わると毒性が変わる場合があり,これは,その化学物質の接触部位からの吸収,障害発現部位への分布や代謝・排出などの相違に伴う変化となって認められる場合が多い。

 しかし,薬物や化学物質による毒性発現を変える因子として最も注目すべきものは,生体側に存在する。医薬品その他の化学物質に対するヒトの反応には,遺伝的条件によって左右されるものがあり,医薬品の薬効や副作用ならびに諸化学物質の毒性発現には種差(人種差,動物種差)や個体差があり,同じ医薬品の同じ用量投与でも,日本人と外国人の間で,また個人間にもその反応発現に大きな開きがあることは,広く認められた事実である。同様に,実験動物で確認されている系統差がヒトで現れる場合もあり,遺伝的疾患がある特定の家系にみられるように,薬物に対する毒性発現にもこの要因を考えるべきである。また年齢によっても毒性の発現に変化がみられることが多い。成年に比べて,幼・小児あるいは老人では,いろいろな薬物の吸収,体内分布や代謝に差がみられ,特定の物質を除き,成人に比べ幼・小児とくに未熟児および老人には毒性が強く現れることが多い。

 男性と女性の間にも同様に性差が存在する。これは両性間の内分泌(ホルモン分泌)機能の差や薬物を代謝する酵素活性の男女間の差に由来すると考えられるが,一般に医薬品その他の化学物質の毒性に対しては,女性は男性よりも強く反応することが多い。

 女性でとくに注意すべきことは,妊娠周辺期の医薬品投与や化学物質との接触である。受精が成立しても,その後の着床までの期間に薬物による障害が起こったときは,受精卵の死亡や異常,ならびに母体側の変化とともにその着床が阻害されるおそれがある。着床が成立し卵が分割を繰り返し器官形成期に入った場合の薬物障害は,奇形発現などの先天性異常を起こしやすく,また,この時期の胎児組織は薬物の障害を最も受けやすい状態にあるので,妊娠期における薬物の適用や化学物質による汚染などには十分に注意を要する。器官形成期は感受期とも呼ばれ,化学物質の作用した時期によって,それぞれ最も強く反応を起こした器官の分化に変化を生じ,特定の器官や部位に奇形となって現れる。先天性異常発生の面からみると,妊娠2週から6週までの期間が主要器官形成に関係する最も重要な時期である。これらの先天性異常の発生は,妊婦にみられる栄養の偏り,ビタミン欠乏や他の疾患の存在などで強められることも考えられるので,妊娠初期の女性では,これらの点についてもとくに配慮すべきである。各器官が形成され発育期に入った段階でも,胎児に対する薬物の危険は存在する。たとえば性ホルモン分泌の異常が薬物により母体に起こると,胎児の性腺発達が障害されて半陰陽が現れたりすることがあるが,このような影響は器官形成期を過ぎた時期に薬物が母体と接触した場合に現れる。この時期の影響としては,胎児の外形に必ずしも変化は認められないが,出生後の機能異常として検出される障害の発生をみることがある。また,正常分娩が行われた場合でも,授乳中の女性に薬物を投与したり,ある種の化学物質による汚染が起こるときは,それらの物質や体内変換を受けた代謝物が母乳を介して新生児に摂取されて,正常児に障害を現すおそれもある。

 現在,医薬品,食品添加物や諸種化学物質が世に出る前に,これら薬物の生体障害をヒトがこうむることがないように検索する目的で,各種の一般毒性試験や生殖試験,変異原性試験や癌原性試験をヒト以外の実験系(細菌,培養細胞や実験動物)を用いて詳しく追究する手段がとられ,それによってヒトへの障害を予測したり,医薬品の場合は適用量,食品添加物では1日摂取許容量などが決められている。

医学,薬学の一分野で,いわゆる毒物を対象とする科学。毒物の自然界の分布や分類,毒物の化学的性状と有害作用の同定,作用発現の機序および理論の究明などが行われる。英語のトキシコロジーtoxicologyの訳。別に古くから中毒学という訳語があり,また最近では毒性学という訳語が多く使われるようになってきた。中国では毒理学と訳され,日本でも一部の学者に使われている。

同じ語源であるにもかかわらず,日本語では毒物学のほかに中毒学,毒性学などといろいろに呼ばれる理由は,過去の習慣や語感などにより受け取られる内容にやや相違があるためである。毒性学では対象を毒物に限定せず医薬品や日用生活化学物質なども対象とし,また有害作用の同定に関しては,それと同時に安全性の検索にも重点が置かれ,その検索や予測の方法論も主要な課題の一つとされている。対象の中心を化学物質の毒性に置くことから,この用語が生まれた。一方,中毒学という用語は,対象の中心を生体の反応に置いて訳出された言葉と考えられ,主として医学の分野で使われてきた関係から,一般には原因物質や発現機序のほかに中毒の症候,診断,治療および特異的拮抗剤など,今日でいうところの臨床中毒学に相当する内容が含まれていると解釈される。

自然界の毒物は,人間の歴史の初期においても狩猟や争いに,またときには病気の治療に用いたことが知られており,前17世紀のエジプトの医書《エーベルス・パピルス》にもドクニンジントリカブト,アヘン,ジギタリスなどの毒物とこれらの治療薬としての利用に関する記述がみられるという。毒物によるソクラテスの自殺やローマ時代の毒ヘビによる殺害など,毒がまつわる有名な話は少なくない。しかし,毒性について研究し今日の毒物学の基礎をつくったのは16世紀のパラケルススである。彼は毒性を現す天然物などを化学物質であるとし,これらの毒と呼ばれる物質には,生体に作用するにあたって,その用量の増加に伴って生体側の反応も大きくなることを示す用量-反応関係の存在することをも明らかにし,この毒性が生体に現れた状態である中毒という概念もほぼこの時代に導入された。彼はまた鉱夫の職業病などにも目を向け,その方面の著書もある。

 近代毒物学の祖は,ルイ18世のスペイン人侍医であったオルフィラM.J.B.Orfila(1787-1853)とされている。彼は各種の毒について多くの動物実験を行い,毒に関する学問を他の分野から独立させ,1818年この学問を毒物に関する研究,すなわち毒物学と定義した。彼はまた検死体から毒物検出の化学的方法を確立し,法医毒物学を切り開いた。その後,化学分析技術の進歩,生理学,生化学,薬理学の進歩,さらには近代化学工業の発達によって毒物学は近年長足の進歩を遂げるに至った。

 日本の毒物学の基礎は1880年東京大学に衛生裁判化学講座が開設されたときに始まると考えられるが,近年,化学物質の毒性に対する関心が急激に高まってきたのは,医薬品,工業化学物質や食品添加物などによる中毒の発生や環境の汚染問題が発生したことによる。日本ではアルキル水銀による水俣病が1953年ころから発生し,催眠薬であるサリドマイドが奇形児分娩との因果関係で61年に発売停止され,食品添加物であったフリルフラマイド(AF-2)が突然変異原性を指摘されるとともに実験的にマウス(シロハツカネズミ)で発癌性を有することが実証されて,74年使用禁止になったなど,多くの社会問題を投げかけた。
執筆者:

生体に有害な作用をもつものを毒とした場合,世界のさまざまな文化における〈有害性〉という観念が多様なため,いわゆる西欧科学(化学,薬学など)では有害とはみなされないものも含まれることになる。したがって,この多様な毒のあり方からすれば,観念上でのみ存在しているものも毒としてとらえられる。また人間が利用している毒を,観念上のものを除いて,その材料によって分類すれば動物毒,植物毒,鉱物毒の三つになろう。それぞれはその利用のされ方によっても分類される。

毒toxinという語の語源がギリシア語のtoxon,すなわち矢箭にあることからもうかがえるように,生業において毒と矢の結びつきは世界各地にみられる。狩猟道具としてはこのほかに吹矢が代表的である。これらの先端に塗られる毒はおもに植物や動物から抽出されたものである。アイヌをはじめチュクチ族ギリヤーク族など東北アジア諸民族,およびヒマラヤ南東部のアッサム,シッキム地方の諸民族によって弓矢に使用されるトリカブト,吹矢で有名なセマン族をはじめマレー半島,ボルネオ,スラウェシ(セレベス),フィリピンに住む諸民族によって使われるイポー毒(アンティアリス属,ストリクノス属の植物),アフリカ赤道付近の諸民族に使われるストロファントゥス属の植物,南米のアマゾン川,オリノコ川流域諸民族のクラーレ毒(ストリクノス属,コンドデンドロン属の植物)などがその代表である。動物毒は植物毒ほど多様ではなく補助的に用いられることもあるが,有毒動物からの抽出液が使用される。アイヌの使うアカエイの毒棘,毒グモの毒,マレー半島にみられるムカデ,サソリ,ヘビの毒,カサゴ,アカエイ類の毒棘,フグ毒,アフリカのサンが使う有毒甲虫類,南米アマゾンのヤドクガエル類の粘液毒などがある。これらの毒の取扱いはきわめて専業化されている社会もあるが,だれでもつくれる場合もあり,その際の断食,性交禁止,精進潔斎などの行為規制の有無も文化によって異なる。

 植物毒を使った漁(毒漁)も世界各地にみられ,陸水に使用されることが多い。台湾の高砂族によって〈魚藤(ぎよとう)〉と呼ばれ,南西諸島よりフィリピン,インドネシア,マレー半島,ニューギニアに至るまでみられるデリス属の植物の根やつるはとくに有名であり,アフリカのマダガスカル島でもみられる。アフリカなどにみられるテフロシア属の植物,南米アマゾンのバルバスコと呼ばれる植物(ロンコカルプス属,テフロシア属)が知られている。これらの植物のつるや根は,石などでつぶして毒を抽出し,あらかじめせき止めた川や水たまりに入れられて使われる。そのため一般的には乾季などの減水期に行われるが,逆に雨季に濁った大河を逃れて集まる小河川の魚を狙うこともある。一村を挙げての集団漁の場合もあれば小人数のときもある。日本ではサンショウの皮がよく知られているが,八重山諸島では,キツネノヒマゴ,ルリハコベ,モッコク,センダン,リュウキュウガキ,タバコ,デリスなど複数の植物性漁毒が使用されており,動物性サポニンを含むクロナマコ類さえ使われている。

これらの毒によって捕った食物が食される際には,熱処理などが必要なのと同様に,食糧として栽培されたり採集されたりする植物には,毒抜き処理が必要なものもある。その代表的な例は世界中にみられるキャッサバ(マニオク)に含まれる青酸性毒の場合である。キャッサバには有毒のものと無毒のものがあり,南米アマゾンの原住民社会では前者の抽出液が漁毒に使われるほど強いものである。毒抜きは,すりおろしたキャッサバをしぼりこすことで水分とともに有毒成分を分離し,加熱によって分解することからなる。日本の山村にみられるどんぐり類の水浸しによるあく抜きも一種の毒抜きである。

狩猟に使用された弓矢や槍,吹矢は毒とともに人間相手にも使われる。日本でも《吾妻鏡》に正嘉2年(1258)8月の出来事として矢毒による殺人が語られており,古代ギリシア,ローマにおける毒殺,古代インドの《カウティリャ実利論》に現れる毒殺方法など,世界各地の部族社会と同様,戦争や暗殺,果ては自殺に至るまで毒はしばしば利用されている。

 これらとは正反対に毒は医薬としても利用されている。16世紀毒使いとして非難を浴びたパラケルススが毒はでもあることを述べているが,その量によってトリカブトが神経痛の薬になったり,ほかにも強心剤,血圧降下剤となるものも多く,部族社会でもその使用がみられる。部族社会で呪医(じゆい)として活動するシャーマンは,敵を〈毒殺〉する一方で,味方の治療をするためにしばしば毒キノコや幻覚作用のある植物を口にし,霊的世界と往来する例がみられる。これらの幻覚薬は新大陸でよく知られており,カリフォルニアからメキシコにかけてのインディオが使うペヨーテ,南アメリカにまで広がるチョウセンアサガオ(ともにアルカロイド毒),アマゾン流域のキントラノウ科の植物(Banisteriopsis caapi),メキシコや東北アジアにみられるシビレタケ(シロサイビン毒),テングタケ(ムスカリン毒)がその代表であろう。漁毒としても知られるタバコ汁も治療の際にシャーマンに飲まれることがある。シャーマンや呪術師,妖術師によって使われる〈毒〉は,つねに目に見えるとは限らない。部族社会での病気あるいははしばしば彼らによって〈毒〉を盛られたとの解釈をもたらすが,この場合の〈毒〉は目に見えぬ毒矢や毒虫(ヘビやサソリなど)による攻撃,さらには言葉自体の中に〈毒〉を含む(呪詛(じゆそ))とさえ考えられ,説明される。呪術,妖術による〈毒〉はしばしば呪薬としてみられる。アマゾン一帯にみられる〈ピリピリ〉はその一つであるが,この呪薬は戦争での一発必中の毒といった面から,相手の心を必ず奪うという媚薬的面に至るまでの多様な用途を含んでいる。

 〈毒使い〉としてのシャーマンの仕事はほかにもある。世界各地にみられる加入儀礼もしばしばシャーマンや他の宗教職能者によってつかさどられる。その際行われる新参者に対する試練には,たびたび毒虫や毒草によるものがみられるからである。南カリフォルニアのインディアン,南米ギアナのピアロア族にみられる毒アリの試練,台湾高砂族にみられるイラクサによるものなどがある。両者とも新参者は,それらの毒をみずからの肉体に受け耐えることを要求されるのである。

 毒は神判に使われることもある。とくにアフリカの原住民社会にみられ,おもにアカバナノキ(エリスロフュレウム属),カラバル豆(フィゾスティグマ属),ストリクノス属の植物が使われる。宗教職能者あるいは首長がこれらを罪人に飲ませ,吐瀉(としや)などで死に至らねば無罪となるものである。

さて以上のような機能をもつさまざまな毒は,それを使う人によってどのように考えられているであろう。南米ギアナ地方のカリブ系諸族によれば,毒は死や病気と結びついている。にもかかわらず彼らの主食たるキャッサバは実際に毒をも含んでおり,彼らの神話は,人間が得た最初の栽培植物(生命の樹)が毒ヘビ,毒アリ,毒グモ,毒バチと共存していたり,この樹の枝を切ることから毒ヘビが生まれたりすることを語っている。つまり生命を長らえる食物と毒は表裏一体のものとして描かれている。中国では病除けの札にヒキガエル,サソリ,クモ,ムカデ,ヘビの図を描き,古代中国の《周礼》には〈凡そ瘍を療するに五毒を以て之を攻む〉という言や〈毒は薬〉の考えに通ずることが述べられている。このように時間的,空間的に隔たった南米と中国二つの人々の考えは,それほど異なっていない。毒は生体に害を与え病を起こすものであるが,しかし量によっては逆の効果も与えうる。

 フランスの人類学者レビ・ストロースはその著《神話の論理》第1巻において新大陸の原住民の思考を検討し,こうした〈毒〉のもつ意味を仲介的,両義的なものとし,文化の存在に必然的に含まれるものと述べている。すなわち〈毒〉は対立的範疇(はんちゆう)(生と死,人間の世界と霊の世界,有罪と無罪,半人前と一人前など)の間にあって,その二つをつなぐと同時に分けてもいて,人間をめぐる世界の意味づけや範疇化に大きな働きをしていると考えている。
執筆者:

日本民族は古来,隣接民族の多くのような戦闘時の武器として毒矢の使用はほとんど知られていない。これは世界的にも珍しいことで,対人ばかりか鳥獣に対して使用する捕獲法も発達していないのである。わずかに川魚を捕るときに樹皮などの毒を用いるドクモミという方法が行われたが,これもとくに頻繁に行われる手段ではなかった。この方法にかかわって語られる昔話として,川魚どもの首領が人に姿を変えて現れ,ドクモミを準備する人々に中止を求めるが,住民はそれをきかず,食物を与えて帰す。いざ毒流しで多くの魚を捕ると,そのうちとくに巨大な魚の腹から先に与えた食物が出てきたので,人々はこの行為を悔いたという話になっている(魚王行乞譚)。これも毒のあることは知りながら,それを用いることを忌むために生まれた説話であろう。もちろん中国や朝鮮から毒の知識が伝えられ,犯罪や医療には使用されたが,自殺用にはまれであった。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「毒」の意味・わかりやすい解説


どく

有毒自然物を精製・合成せず、ほとんどそのまま用いたものをさす語。ただし漢字の毒に対応する訓(くん)がないこと、毒に関する民間伝承が比較的少ないこと、栽培種に類似した無毒の植物に、どくを冠する例(ドクイチゴなど)があることなどから、毒物全般をさす日本語のどくが、漢方などから一般用語として採用されたのは比較的新しく、用法が固定していないことを指摘できる。

 世界の諸民族が毒を利用する主要な目的は(1)動物性食料の獲得、(2)幻覚導入である。このほかにニワトリに毒物を与えて反応をみる毒物託宣(アフリカ中央部のアザンデ文化)がある。(1)には、狩猟での利用(主として弓や吹き矢筒から発射される毒矢)と、漁労での利用(毒矢、毒銛(もり)、毒流し)がある。利用毒物には入手しやすい生物毒、とくに植物毒が多い。アフリカではストロファンツス、東アジアではトリカブト、東南アジア島嶼(とうしょ)部ではイポー、南アメリカではクラーレが著名な植物毒である。非農耕文化では効率のよい食料獲得手段として毒利用がとくに重要であり、東アジアでは旧アジア系諸民族の毒利用がよく知られている。先史時代から毒が重要だったのだろうが、毒自体が遺物として残存せず、鏃(やじり)、銛先の刻み目から推測するにとどまっている。

 幻覚導入に用いるのはシャーマンの加療儀礼の際などである。この目的で用いる毒には、飲料(アルコール、カバなど)、そしゃく物(「魔法キノコ」、コカなど)、吸引物(アヘン、タバコなど)がある。ペヨーテサボテンLophophola williamsiを用いる民族が中米に多く、とくにメキシコのウィチョル文化での利用が著名である。ウィチョル文化では、年中行事としてペヨーテサボテンを作法に従って採集し、肉体の食物に対する精神の食物としてこのサボテンを彼らの世界観のなかに位置づけている。一般に幻覚導入に用いる毒の調整や利用には複雑な手続とタブーを設け、象徴的な意味をもたせることが多い。成人式に毒を用いた自虐的行為をして幻覚状態に入った民族もある。

[佐々木明]

『杉山二郎・山崎幹夫編著『毒の文化史』(1990・学生社)』

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デジタル大辞泉プラス 「毒」の解説

立松和平による著作。副題「風聞・田中正造」。明治中期に起きた、足尾鉱毒事件で鉱毒反対運動の中心人物となった田中正造を描く。1997年、第51回毎日出版文化賞(文学・芸術)受賞。

毒(ポイズン)

赤川次郎のミステリー連作短編集。1981年刊行。

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