トリックスター(読み)とりっくすたー(英語表記)trickster

翻訳|trickster

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリックスター」の意味・わかりやすい解説

トリックスター
とりっくすたー
trickster

世界各地の神話民話に登場するいたずら者。道化の神話的形象といえるが、これはたとえば、西アフリカにおけるいたずら者の神や、アフリカ全土で語られる野兎(のうさぎ)や蜘蛛(くも)、亀(かめ)といった動物であったりする。北米インディアンの神話においても、コヨーテワタリガラスなどの動物になったり、人間の姿をとったりしている。彼らには共通して、機知機転狡猾(こうかつ)さ、気まぐれ、悪ふざけなどの性格がみられる。また、この世に混乱と破壊を引き起こすと同時に、しばしば混乱のなかから未知の文化要素を生み出し、破壊のあとにふたたび新しい秩序をもたらすという文化英雄役割も果たしている。

 こうした特徴は、ギリシア神話の商売と競技の守護神で、霊魂冥界(めいかい)に案内するヘルメスや、日本神話の素戔嗚尊(すさのおのみこと)などにも認められる。トリックスターは、神と人間、天と地、秩序と混沌(こんとん)、自然と文化の間を行き来し、その境界で活躍する両義的存在となっている。心理学者のユングトリックスターを「未分化な人間の意識の模写」と考えたが、フランスの人類学者レビ(レヴィ)・ストロースは「人間が世界を把握するために用いる基本的カテゴリーの対立を仲介し、世界についての統一的認識を与えるもの」と説明している。

[加藤 泰]

『山口昌男著『道化の民俗学』(1975・新潮社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリックスター」の意味・わかりやすい解説

トリックスター
trickster

神話や民間伝承のなかで,トリック (詐術) を駆使するいたずら者として活躍する人物や動物。ときには愚かな失敗をし,みずからを破滅に追いやることもあるが,詐術的知恵や身体的敏捷性をもって神や王など秩序の体現者を愚弄し,世界 (社会) 秩序を混乱・破壊させる。一方,一般の人間界に知恵や道具をもたらす文化英雄としての役割も果し,両義的な性格をもつ。北アメリカインディアンの間ではコヨーテやワタリガラス,野ウサギなどが,またアフリカではクモやカメ,野ウサギなどの動物であることが多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報