日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボアズ」の意味・わかりやすい解説
ボアズ
ぼあず
Franz Boas
(1858―1942)
アメリカの文化人類学者。極北や北米での豊富な調査体験をもとに、アメリカ文化人類学に総合人類学としての方向づけを与え、クローバー、ベネディクトら次代の第一線級の人類学者を育てるなど大きな貢献をしたので、アメリカ人類学の父と称されている。
ドイツに生まれ、物理学を専攻、23歳のときキール大学で学位を得た。早くから民族学にも興味を示し、地理学をも学んだことがきっかけとなって、25歳のとき極地エスキモー、さらに3年後にはブリティッシュ・コロンビアの先住民集団クワキウトルの調査を行った。このおりに触れたアメリカ合衆国の自由な雰囲気にひかれ、1887年アメリカに帰化し、1889年からマサチューセッツのクラーク大学で、1896年から1936年の退官までコロンビア大学で人類学を教えた。
彼の調査は、住民の間に入り込み、その思考の内面にまで及ぼうとするもので、いわゆる安楽椅子(いす)人類学者全盛の当時としてはユニークなもので、マリノフスキーらイギリス社会人類学者による本格的現地調査を一世代先行していた。先住民の物質文化、形質、言語、社会、宗教、神話、心理などについての原語テキストを多く含む膨大な記録は、ボアズの実証主義、総合人類学を支えていた。彼が、環境決定論、人類進化史の復原、歴史法など、そのときどきに強い関心を寄せながらも遠ざかったのも、事実との照合の結果、それらでは十分説明しえないことに気づいたためであった。彼がなによりも関心を寄せたのは、たとえばクワキウトルの怪異な仮面や丹念な装飾の背後に隠れている豊かな内面思考、つまり文化のシンボリックな面にあり、これは、晩年関心を寄せた文化と個人のテーマに連なるものである。また、一般への啓蒙(けいもう)活動、とくに人種主義への批判などにも積極的だった。
[末成道男 2019年1月21日]