改訂新版 世界大百科事典 「ジョングルール」の意味・わかりやすい解説
ジョングルール
jongleur[フランス]
広義の意味でのジョングルール(オック語(南フランス)のジョグラールjoglar)は,すでにガロ・ロマン期の文献に言及されるほど古くからの存在で,大道芸人,旅芸人の総称であった。すなわち,語り手,楽師,香具師(やし),曲芸師,離れ業や力業の見せ手,人形遣い,芸を仕込んだ動物の使い手等々で(女芸人はしばしば娼婦を兼ねていた),教会関係者からは社会の最下等層に位置づけられ,非難され続けた。中世文学史で問題とされるジョングルールとは,彼らの中の知的部分であり,文学作品を聴衆の前に披露する役割を演じた。旋律を伴った作品の場合は,楽器の演奏も彼らが担当する。トルバドゥール,トルベールが宮廷芸術家,創作家であるのに対し,ジョングルールは演奏家であった(よく用いられる吟遊詩人というあいまいな呼称は,旅芸人である後者にむしろふさわしい)。ただし,両者の区別はあくまで原則的なものにとどまる。トルバドゥールで声に自信のある者は自作自演が普通であり,遠隔地での演奏をジョングルールに任せた。また特定のトルバドゥールのお抱えジョングルールから,トルバドゥール身分に出世した者(例えばアルノー・ド・マルイユに仕えたピストレータ),逆に後者から前者の身分に没落した者(オーベルニュの騎士ペロール)がいて,両者の混交は常に存在した。なお北フランスでは,宮廷や城館に仕え,安定した身分を得たジョングルールをメネストレルménestrelの名で呼んだ。
執筆者:新倉 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報