日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネール温度」の意味・わかりやすい解説
ネール温度
ねーるおんど
Néel temperature
反強磁性体の磁気的相転移温度。TNの記号が使われる。フランスの物理学者ネールが、初めて反強磁性体を理論的に解明したことに由来する。TNは、強磁性体のキュリー温度Tcに対応する。反強磁性体を高温から温度を下げてくると、TNで原子磁気モーメントが整列し始める。反強磁性体では、TN以下で磁気モーメントが交互に上向き下向きとなるように整列しているので、全温度範囲で、巨視的には常磁性のようにふるまう。多くの反強磁性体では、常磁性磁化率がTNで最大となるので、磁化率の温度変化測定はTNを知るための有力な実験的手段である。TN以上では、原子磁気モーメントの方向は乱雑になり微視的にも常磁性となる。ネール温度の名称は、螺旋(らせん)磁性などの広義の「反強磁性体」についても使われる。TNは絶対温度で、1K以下から1000K付近まで広く分布する(MnCl2・4H2Oでは1.68K、MnF2で72K、MnOで122K、NiOで520Kなど)。
[宮台朝直]
『金森順次郎著『磁性』(1969・培風館)』