反強磁性(読み)ハンキョウジセイ

デジタル大辞泉 「反強磁性」の意味・読み・例文・類語

はん‐きょうじせい〔‐キヤウジセイ〕【反強磁性】

磁性の一。結晶内で隣り合う原子磁気モーメントが互いに逆向き配列し、全体として磁化率が低い性質。温度上昇に伴い配列が乱れるため磁化率が上がり、一定温度以上では常磁性になる。

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化学辞典 第2版 「反強磁性」の解説

反強磁性
ハンキョウジセイ
antiferromagnetism

磁性体の結晶格子点を,ABAB…のようにAおよびBの二組に分けるとき,それぞれを部分格子という.最隣接の格子点AおよびBにある磁気的原子あるいはイオンの間にはたらく交換相互作用が,それらのスピン,すなわち磁気モーメントを,強磁性体の場合とは反対に互いに反平行に向けようとする場合は,0 K ではAの磁気モーメントはすべて上を,Bの磁気モーメントはすべて下を向き,結晶全体としては互いに打ち消されるので,自発磁化が現れない.このような磁性体を反強磁性体という.反強磁性体が示す磁性を反強磁性という.反強磁性体の部分格子の自発磁化は温度の上昇とともに減少し,ある温度で消失する.この温度をネール温度という.反強磁性体はMnF2やCr2O3のような化合物が多く,したがって磁気的イオン間にはたらく交換相互作用は,それらの間にある陰イオン媒介とするもので,超交換相互作用といわれる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「反強磁性」の意味・わかりやすい解説

反強磁性【はんきょうじせい】

ふつうの常磁性体の磁化率は温度が下がるにつれ絶対温度に反比例して増大するが,鉄族元素酸化物硫化物ハロゲン化物(MnO,MnS,NiO,Cr2O3等)では温度が上がるにつれて上昇し,ある温度(ネール温度という)で極大になり,それ以下では磁場の強さに依存する。この現象を反強磁性という。これらの物質中では鉄族イオンが2群に分かれ,ネール温度以下ではそれらの磁気モーメントが互いに逆方向を向いて打ち消し合っているが,ネール温度以上では熱運動のため無秩序になり,常磁性を示す。→ネール
→関連項目磁性体フェリ磁性

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「反強磁性」の意味・わかりやすい解説

反強磁性
はんきょうじせい
antiferromagnetism

磁性原子の磁気モーメントが互い違いに逆向きに規則正しく並んでいて,全体として自発磁化は打消し合ってゼロになっている磁性。同方向を向いた磁気モーメントをもつ原子がつくる部分格子は強磁性と同じである。その自発磁化は温度の関数で,ネール温度 (反強磁性体の磁気転移の温度) より上では消滅する。2つの部分格子が並んで配列した簡単な場合だけでなく,螺旋的,正弦曲線的にスピンが配列する反強磁性も存在する。反強磁性物質の磁化率 Xm はおおよそ図のようになる。ネール温度以下では,磁化容易軸に平行に磁場を加えた場合と,垂直に磁場を加えた場合とで,磁化率に差が現れ,それぞれを平行磁化率垂直磁化率と呼ぶ。垂直磁化率は温度変化しない。

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改訂新版 世界大百科事典 「反強磁性」の意味・わかりやすい解説

反強磁性 (はんきょうじせい)

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世界大百科事典(旧版)内の反強磁性の言及

【交換相互作用】より

…これらの複雑な交換相互作用の中には二つのスピンの向きを反平行にする力を与えるものがあり,すべてのスピンの向きがそろっている強磁性に対して,磁性原子の上の電子のスピンの向きが結晶格子に沿って互い違いに変わるような磁性が発現することが示された。このように磁性原子のスピンの向きが結晶格子に沿って規則的に変わるような磁性を反強磁性という。一方,もっともありふれた強磁性体である鉄,コバルト,ニッケルなどを含む金属強磁性体では,これらの物質の磁性を担う電子(d電子)は局在しておらず,自由に動き回る状態(遍歴電子状態)にあると考えられている。…

【磁化】より

…磁化率が正の場合,すなわち磁化が加えた磁場に平行な場合,その物質の磁性を常磁性と呼び,磁化率が負で,磁化が加えた磁場に反平行な場合を反磁性と呼ぶ(物質が等方的でなければ磁化率はテンソルになる)。微視的には強磁性に似た磁性の成立ちをもち,反強磁性と名付けられる磁性を示す物質があるが,反強磁性物質の磁化は常磁性の場合に似たふるまいをする。
[磁化曲線]
 一般に磁化(の強さ)Mと加えた磁場(の強さ)Hとの関係を表す曲線を磁化曲線magnetization curveと呼ぶ。…

【磁性】より

…反磁性体,常磁性体では磁場によって磁化が誘起されるのに対し,強磁性体は磁場がなくても磁化をもっており,この磁化を自発磁化と呼ぶ(ただし強磁性体でも磁区の構造によっては見かけ上磁化をもたない場合がある)。このほか,強磁性と似た成立ちであるが,巨視的には自発磁化をもたず,常磁性に似た性質を示す反強磁性と呼ばれるものがあり,さらに成立ちは反強磁性に似ているが,巨視的には自発磁化をもつフェリ磁性と呼ばれるものもある(それぞれの物質を反強磁性体,フェリ磁性体という)。 磁性の起源となるのは原子を構成する電子および原子核の磁気モーメントである。…

※「反強磁性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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