日本大百科全書(ニッポニカ) 「反強磁性体」の意味・わかりやすい解説
反強磁性体
はんきょうじせいたい
隣り合う原子磁気モーメント(以下スピンという)が逆向きに規則的に配列し、全体としての磁化が0になっているような磁性体のこと。反強磁性体は磁性原子を含む酸化物、化合物に多く、高温から温度を低下させると、ネール温度(記号ΘN)とよばれる温度までは磁化率は上昇し、ネール点で折点をつくる。また、ネール温度以下では、温度の低下とともに、磁化率は減少するという特徴のある磁化率の温度変化を示す。磁化率の逆数を温度の関数としてグラフにすると、ΘN以上の温度では、1/χはTに対して線形で、その延長は温度軸を負の側で切る。
反強磁性体では、絶対零度で、大きさの等しいスピンが、A、B2種の同数の格子点に配置し、A格子点では正の方向に、B格子点では負の方向に向いている。これをスピンの反強磁性構造という。A、B格子点のスピンを反対向きにしているのは、その間にあるO2-などの陰イオンのp軌道を通じて行われる超交換相互作用という量子力学的な相互作用で、この強い作用は、正の向きに加えた外部磁場がB格子点のスピンを負の向きから正の向きに変えようとする傾向に逆らうため、磁化率は低下する。温度の上昇とともに反強磁性構造をとるスピンの配列は熱振動のため乱れ、それにつれて磁化率は上昇する。ネール温度でスピン配列がまったく乱雑になったあとは、普通の常磁性と同様、磁化率は温度の上昇とともに低下する。反強磁性磁気構造は、中性子回折の実験によって検証されている。
[近角聡信]