キュリー温度(読み)キュリーオンド

デジタル大辞泉 「キュリー温度」の意味・読み・例文・類語

キュリー‐おんど〔‐ヲンド〕【キュリー温度】

強磁性体強磁性から常磁性への、強誘電体強誘電性から常誘電性への移行を生じる温度P=キュリー発見キュリー点

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キュリー温度」の意味・わかりやすい解説

キュリー温度
きゅりーおんど

鉄、コバルトニッケルのような強磁性体を熱すると、特定の温度で自発磁化が消失する。これは、低温で平行に配列していたこの物質の中の磁気モーメントが、特定の温度以上で無秩序となるためである。この現象はP・キュリーによってみいだされた(1895)ので、キュリー温度またはキュリー点とよばれている。キュリーによって測定された鉄の磁化の温度変化のデータをみると、磁化が約750℃で消失していることがわかる。鉄、コバルト、ニッケルのキュリー温度は、今日では絶対温度でそれぞれ約1044K、1388K、631Kであることが知られている。

 キュリー温度Tcで種々の物理量に大きな異常が現れる。たとえば、Tcより高温の磁化率はTcで無限大となり、比熱も鋭いピークを示す。また電気抵抗、熱起電力、熱膨張もそれぞれ異常を示す。このような現象を臨界現象とよぶ。この異常の現れ方は、主として磁気モーメントの異方性(等方的に配列するか異方的か)と、磁気モーメントの配列の次元(三次元的かもっと低次元的か)によって定まるので、臨界現象の研究はこれらについての情報を得るために重要である。

 金属強磁性体のなかには、キュリー温度での熱膨張の変化が大きく、通常の熱膨張を打ち消すため、結果的に見かけ上は熱膨張がない物質がある。この現象をインバー効果とよぶ。この効果を示すもっとも典型的な物質は、インバーとよばれる鉄‐ニッケル合金(Fe65-Ni35)で、物差しや時計のぜんまいなど熱膨張を嫌う金属部分に用いられている。またある種の強磁性マンガン化合物では、キュリー温度において電気抵抗が絶縁体的なものから金属的なものとなる。これを利用して、磁場を加えることで電気抵抗を大きく変えることができ、これは巨大磁気抵抗効果とよばれている。

[石川義和・石原純夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「キュリー温度」の意味・わかりやすい解説

キュリー温度 (キュリーおんど)
Curie temperature

(1)強磁性体が常磁性体相転移するときの温度。発見者P.キュリーにちなみこの名があり,キュリー点ということもある。この温度より高い温度では,強磁性体では自発磁化が消失し,常磁性状態となる。このような相転移は協同現象と名付けられ,固体物理学で重要な役割を演ずる概念の一つである。なお,強誘電体が常誘電体に転移する温度もキュリー温度と呼ばれる。また一時期,反強磁性体,フェリ磁性体が常磁性体に転移する温度などもキュリー温度と呼ばれたが,現在ではその研究を行ったL.ネールにちなみ,ネール温度またはネール点と呼ばれる。

(2)きわめて低い温度領域では,温度を測定すること自体が実際上の大きな問題点であり,適当な常磁性物質を温度計として採用し,その磁化率が絶対温度に反比例するというキュリーの法則に厳密に従うとして,測定された磁化率から温度を定めるという方法が行われる。このようにして得られた実用温度目盛をキュリー温度と呼び,°Curieの記号で表す。実際にはキュリーの法則に対する補正があるからこのままでは熱力学的絶対温度とは一致しない。
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百科事典マイペディア 「キュリー温度」の意味・わかりやすい解説

キュリー温度【キュリーおんど】

キュリー点とも。強磁性体はある温度を越えると急激に常磁性体に変わる。この温度をいう。強誘電体もある温度以上で急激に自発分極を失い,この温度もキュリー温度という。低温における物体内の磁区の規則的な配列が温度上昇による熱運動の増大で乱され,キュリー温度で急激に不規則な配列に変わるためで,各種物理量が急激に変化するほか,異常に大きい比熱が現れる。発見者P.キュリーにちなむ。→相転移
→関連項目協同現象転移点

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化学辞典 第2版 「キュリー温度」の解説

キュリー温度
キュリーオンド
Curie temperature

二つの意味がある.【】キュリー点ともいう.強磁性あるいは反強磁性などの協同現象で,低温側でみられる規則的な配列が温度の上昇とともに熱運動でじょう乱され,ある温度で急激に不規則な配列にかわり,強磁性体は常磁性体にかわる.この温度をキュリー温度という.この温度では比熱容量にも異常が現れ,λ点ともいわれる.【】磁気温度,磁化率温度ともいわれる.常磁性塩の磁化率χと温度との間にはキュリーの法則

χ = C/T (Cはキュリー定数)
が成り立つ.既知温度での測定でCの値を求めておけば,未知温度でのχの測定からその温度を知ることができる.10-2 K 以下の温度では,この温度の熱力学的温度からのずれが大きくなる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キュリー温度」の意味・わかりやすい解説

キュリー温度
キュリーおんど
Curie temperature

(1) 強磁性体が常磁性状態から強磁性状態へ,またはその逆の変化をするときの磁気転移温度。つまりこの温度より上では強磁性体は自発磁化をもたず,これより低い温度では自発磁化をもつ。この変化は二次相転移の典型的なものである。キュリー点ともいう。 (2) 常磁性体の磁化率は絶対温度に反比例する (キュリーの法則 ) 。この法則が極低温まで成り立つとして,極低温領域で磁化率の測定値から求めた温度を常磁性キュリー温度という。

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法則の辞典 「キュリー温度」の解説

キュリー温度【Curie temperature】

強磁性体を加熱すると,ある温度で永久磁化を失い,常磁性体に変化する.この転移温度をいう.物質特有の温度である.また,強誘電体が常誘電体に転移する温度もいう.

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世界大百科事典(旧版)内のキュリー温度の言及

【磁化】より

…自発磁化の大きさはある温度では一義的に定まり,温度の関数である。自発磁化の消失する温度をキュリー温度と呼び,キュリー温度以上では常磁性を示す。通常,自発磁化の温度変化は単調で,温度が下がればその大きさは増加する。…

【磁性】より

…温度が高くなって熱エネルギーが交換相互作用のエネルギーよりも大きくなると常磁性状態になる。この転移はある定まった温度で起こり,この温度はキュリー温度と呼ばれる。 鉄などの遍歴電子の強磁性もやはり電子間の交換相互作用に基づく。…

※「キュリー温度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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