日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノウサギ」の意味・わかりやすい解説
ノウサギ
のうさぎ / 野兎
hare
広義には哺乳(ほにゅう)綱ウサギ目ウサギ科ノウサギ属に含まれる動物の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この属Lepusのウサギはいずれも前肢が長く、地上を走行するのに適した体形をもち、地中に深い巣穴を掘らない。新生子は体毛で覆われ、生後すぐに歩くことができる。北アメリカ、ユーラシア、アフリカなどに20種ほどが知られている。
種のノウサギL. brachyurusは本州、四国、九州、佐渡島、隠岐(おき)諸島に分布する。頭胴長43~54センチメートル、尾長1~5.4センチメートルで、ユキウサギに比べてやや小形である。体毛は地方によって冬に白変するものと、一年中茶色のものがあるが、その変化は温度ではなく日照時間によることが証明されている。すなわち、東北地方の個体では、日照時間を11時間以内に保つと白化するという。低地から高山までの草原や森林に生息し、夜行性で、草本類、樹枝、樹皮などを摂食する。若い植林地など、低木林に多く、冬季に植林木や果樹に食害を与えることがある。繁殖期は地方によって異なるが、東北地方では4~8月が出産期で、雌は1年に1、2回出産し、1回1~4子、平均約2子を産む。妊娠期間は42~44日。新生子は体毛が生えそろい、目があき、すぐ走ることが可能である。子の成長は速く、次の春には繁殖可能となる。生息数は多く、天敵はキツネや猛禽(もうきん)類である。本州中部以北のものをエチゴウサギ(トウホクノウサギ)、本州中部以南、四国、九州のものをキュウシュウノウサギとよぶこともある。
[阿部 永]