ソ連の小説家。農民の出で、一水兵として日露戦争に加わり捕虜となったが、帰国(1906)後、対馬(つしま)沖海戦をめぐる発禁のパンフレットを刊行して当局に追われ、イギリスに逃れ(1907)、商船員として1913年まで亡命生活を送った。この間カプリ滞在中のゴーリキーを知り、その影響下に短編集『海の物語』(1917)ほか、海洋小説を多く書いた。代表作の長編『ツシマ』(1932~35)は、日露戦争時虜囚の身でつけたメモと海戦の参加者から得た資料をもとに、戦闘の推移、艦隊の壊滅までを水兵集団の行動のヒロイズムと革命意識の覚醒(かくせい)を中心に精密に描いた歴史小説である。
[島田 陽]
『上脇進訳『ツシマ』(1984・原書房)』
ソ連邦の作家。1899年から1906年まで水兵勤務。1904-05年の日露戦争で対馬沖の海戦に参加,日本の捕虜となり,抑留中に創作をはじめる。帰国後05年革命に参加し,07年に国外に亡命,各国の商船で水夫として働き,13年に帰国した。革命後,作家生活に入り,《潜水夫たち》(1923),《海の女》(1928)など,海に働く人たちの生活を扱った中・短編を発表した。代表作となった《ツシマ》(1932-40)で,彼は歴史文献の研究のうえに自己の体験を織りこみ,対馬沖でのロシア水兵の勇気,司令部の無能,水兵の間に高まる反戦気分などを描いた。この作品は数百万部も売れる成功を収めた。ほかに長編《一等大尉》(未完)がある。
執筆者:原 卓也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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