ハシェク(読み)はしぇく(英語表記)Jaroslav Hašek

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハシェク」の意味・わかりやすい解説

ハシェク
はしぇく
Jaroslav Hašek
(1883―1923)

チェコスロバキアの作家。貧しい教師を父としてプラハに生まれ、少年時代から奇行が多く、曲折ののち商業学校を卒業。一時銀行に勤めたが放浪癖のため辞職、雑文記者となり、オーストリア帝政下のチェコで、国家機構やプチブル根性を風刺するユーモア短編を手当たりしだい書きまくり、無頼の生活を送った。作品の傾向は文学的ダダイズムと評されるが、アナキスト的政治運動にも関与し、酒場政党をつくって選挙に立候補しさえした。第一次世界大戦中、オーストリア軍の一兵士として召集され東部戦線に回されたが、ロシア側に走り、いわゆるチェコ軍団一員となった。さらにボリシェビキ革命の成功後は赤軍に移り、政治委員まで務めた。戦後の1920年、独立した祖国での共産主義革命を促進すべくプラハに戻ったが、すでにマサリク治下の民主政治が確立され、革命の夢は消えていた。やむなくプラハを去って、彼を世界的に有名にした『兵士シュベイクの冒険』(1921~23)の創作に専念したが、心臓発作のため完成を待たずにこの世を去った。

 文学的出発は非常に早く、商業学校の友人共著詩集五月の叫び』(1903)があり、生前に『よき兵士シュベイク その他の不思議な物語』(1912)、『わたしの犬商売 その他のユーモア短編』(1915)などを公刊死後も『「法の枠内でのおだやかな進歩」党の歴史』(1962)をはじめ、数多くの新資料が発掘されている。

飯島 周]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハシェク」の意味・わかりやすい解説

ハシェク
Hašek, Jaroslav

[生]1883.4.30. プラハ
[没]1923.1.3. リプニツェウハブリーチコバブロドゥ
チェコの小説家,ジャーナリスト。初期の写実主義的な傾向から,攻撃的な風刺へと進んだ。第1次世界大戦でロシア軍の捕虜となり,やがて赤軍に加わり従軍記者となった。軍国主義を嘲笑し,社会制度,裁判,警察などを笑いものにした反戦ユーモア小説の長編『兵士シュベイクの冒険』Osudy dobrého vojáka Švejka za světové válkyを 1921年から没年まで書き続けた。ほかに長編風刺小説『法の枠内における平和的進歩党の歴史』Dějiny strany mírného pokroku v mezích zákona(1963)など。

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