日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハックス」の意味・わかりやすい解説
ハックス
はっくす
Peter Hacks
(1928―2003)
ドイツの劇作家。ブレスラウ(現ポーランド領ブロツワフ)生まれ。デビュー作『インド洋時代の開始』がミュンヘンで初演された1955年、当時の東ドイツに移住。ブレヒトの影響を受けて、歴史的題材を現代の立場から弁証法的に扱った『ロボジッツの戦い』(1956)、『無憂宮の風車屋』(1958)を発表、現代劇執筆の要請を受けて書いた『憂慮と権力』(1960)や『モリッツ・タッソー』(1965)は、国内の矛盾をつきすぎたため党から批判され、以後は革命後の劇作法を提唱し、古典的、娯楽的なテーマに逃避した。『シュタイン家における不在のゲーテ氏との対話』(1976)など、技巧的に優れた数多くの作品や古典の改作(ゲーテやアリストファネス)を発表した。ドイツ統一後も多作だが、統一前ほど新作の上演は多くなかった。『ハフナー、ジャコウネズミ』(1993)、『テレマック王子と教育係メントール』(1997)、『国王、道化、ワニ』(1998)、『蚤(のみ)の市』(2001)などの作品のほかに文学論、詩論、詩集などを発表した。
[岩淵達治]
『五十嵐敏夫訳『憂慮と権力』(『現代世界演劇11』所収・1971・白水社)』▽『岩淵達治他訳『シュタイン家における不在のゲーテ氏との対話』(1999・日本ゲーテ協会)』