ハラー(読み)はらー(英語表記)Albrecht von Haller

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハラー」の意味・わかりやすい解説

ハラー(Albrecht von Haller)
はらー
Albrecht von Haller
(1708―1777)

スイスの医学者、植物学者、詩人ベルンに生まれ、幼少時より各種の学芸卓抜才能を発揮した。チュービンゲン大学に学んだのち、ライデン大学ブールハーフェ、アルビヌスBernhard Siegfried Albinus(1697―1770)らに師事し、ついでロンドン、パリ、バーゼルなど各地を遊学した。1736年新設されたゲッティンゲン大学に教授として迎えられ、解剖学、生理学、植物学を担当した。1753年辞職してベルンに帰り、その地で著述を中心とする生活を送った。

 多数の精密な人体解剖と豊富な動物実験、そして鋭い洞察力と緻密(ちみつ)な論理とによって、数々の新発見と新しい生理学理論を構築し、以後の解剖学、生理学に多大の影響を与えた。

 筋肉の収縮力を、単純な物理的弾性によるものとは考えず、筋肉に内在する性質と考え、心臓もまたこの性質をもつとした。また筋肉の収縮(興奮)は、直接筋肉に刺激が加えられておこるのではなく、神経の伝導によるとした。神経に関する研究では、脳や末梢(まっしょう)神経を刺激したり破壊したりして、それによっておこる反応や麻痺(まひ)を調べた。消化器官に関する研究では、着色した液体を用いて乳糜(にゅうび)管が吸収作用をもつことを明らかにした。動脈系に関する研究では、腹腔(ふくくう)動脈とその分枝形式(左胃動脈、脾(ひ)動脈、総肝動脈に三分岐する)を発見(ハラーの腹腔三脚として有名)、またその特殊な形式としての腹腔腸間膜動脈の存在を明らかにした。『人体解剖学図譜』(1743~1756)と『人体生理学要綱』(1757~1766)はいずれも全8巻のラテン語による大著で代表作である。医学百科事典を執筆したほか、植物学者としてスイス地方の植物を研究、また詩人、伝記作家としても一家をなし多彩な才能を発揮した。

[澤野啓一]


ハラー(Karl Ludwig von Haller)
はらー
Karl Ludwig von Haller
(1768―1854)

スイスの政治家、政治思想家。ベルンの都市貴族出身で1806年にベルン大学教授となり、1814年にベルン国大評議会議員となる。1820年カトリックに改宗したためにベルンを追われ、フランスで政論家として活躍するが、七月革命後スイスのゾルトゥルンに戻り、研究と著作活動を行う。彼は主著『国家学の復興』Restauration der Staatswissenschaft6巻(1816~1825)で近代自然法思想を歴史的にみて誤っていると批判し、宗教的基礎のうえにたつ中世の封建的領主国家を理想とする等族的家産国家論を「強者の権利」論で弁護した。彼の主張は反動期の復興的保守主義の理論としてプロイセンのユンカー層に支持された。

[安 世舟]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハラー」の意味・わかりやすい解説

ハラー
Haller, Albrecht von

[生]1708.10.16. ベルン
[没]1777.12.12. ベルン
スイスの解剖学者,生理学者,詩人。実験生理学の父といわれている。テュービンゲン,ライデン両大学で医学を学び,1728年帰国。ベルンで開業するかたわら,解剖学を研究。 36年新設のゲッティンゲン大学に教授として招かれ,主として解剖学,外科学を講じた。 53年帰国し,政府行政官をつとめた。呼吸の仕組み,心臓の自律的機能,胆汁の脂肪消化機能,「ハラーの腹腔三脚」の発見,生殖器の解剖学的研究など多数の業績があるが,特に有名なのは筋肉の被刺激性の実験的確立であった。主著『人体生理学原論』 Elementa Physiologiae Corporis Humani (8巻,1757~66) 。また啓蒙期の詩人で,『詩集』 Gedichte (32) ,小説『アルフレッド』 Alfred (73) ,『ファビウスとカトー』 Fabius und Cato (74) などがある。

ハラー
Haller, Johannes

[生]1865.10.16. エストニア,カイニス
[没]1947.12.24. テュービンゲン
ドイツの歴史家。マールブルク (1902) ,ギーセン (04) ,テュービンゲン (13~32) の諸大学教授。もともと中世史が専門で,『旧ドイツ帝制』 Das altdeutsche Kaisertum (1926) ,『教皇制の理念と現実』 Das Papsttum,Idee und Wirklichkeit (3巻,34~45) などの研究があるが,ナショナリスティックなドイツ通史『ドイツ史の諸時期』 Epochen der deutschen Geschichte (23) ,『独仏関係一千年史』 Tausend Jahre deutsch-französischer Beziehungen (30) が最も広く読まれた。

ハラー
Haller, Karl Ludwig von

[生]1768.8.1. ベルン
[没]1854.5.21. ゾロトゥルン
スイスの政治学者。 A.ハラーの孫。 1806~17年ベルン大学教授。 14年枢密院議員となったが,21年カトリックに改宗したため罷免され,25年フランスに逃れ文筆活動に従事。 30年七月革命後スイスに帰り再び官職についた。主著『国家学の復興』 Restauration der Staatswissenschaften (6巻,1816~34) 。

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