広義では行政学,財政学,経済学等を含めて,国家現象を研究の対象とする諸学問の総称であるが,通例は,ドイツ語のStaatslehreの訳語として用いられる。Staatslehreの内容については論者により相違があるが,イェリネックが《一般国家学》(1900)において提唱した用語法が標準的である。
イェリネックによれば,国家学は国家科学Staatswissenschaftの一分肢であり,国家科学は社会科学Gesellschaftswissenschaftの一分肢である。社会科学は〈人間の共同生活の諸現象をすべての側面から研究する精神科学〉であり,国家科学は,そのうちで,〈国家ならびに国家によって国家の構成部分として国家の構造の中に取り入れられた諸団体〉を研究の対象とする。ところで科学は諸現象を確定して整理する記述的科学と,諸現象のあいだの関連の法則を提示する理論的科学と,実践的目的に対する法則の応用価値を教示する実践的科学とに分類されるが,国家学は理論的国家科学として,一方で,諸国家の制度の記述としてのStaatenkundeから,他方で,〈国家の諸状態や諸事情に対する判断のための批判的尺度を与えるところの,一定の目的論的観点からする国家現象の考察〉としての政治学Politikから区別される。
従来ドイツでは,国家科学の領域において,国家学が著しい発達をとげたのに対して,政治学には見るべき業績が乏しく,また,たとえば政党や労働組合など国家権力外的諸現象は国家学の視野の外に置かれた。これは,アングロ・アメリカの政治学political scienceのありようとの対比において興味深いが,ドイツでは市民社会の形成が遅れ,国家権力=君主官憲から離れてこれに対抗する政治勢力が脆弱であったために,政治が国家権力を中心とする支配現象として現れたことの帰結であるということができよう。ドイツでも第2次大戦後は英米流の政治学的研究が有力になり,今や国家学はかつての勢威を失っている。
執筆者:日比野 勤
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
普通「国家学」とよばれるものは、19世紀ドイツで発達した国家の原理、制度、体制などに関する研究をさし、特定国家ではなく国家一般を取り扱うものとして「一般国家学」の名でも知られている。代表的学者としては、G・イェリネック、H・ケルゼン、H・ヘラーなどがあげられる。ドイツでは国家に関する百科事典的な全般的・総合的研究を称して「国家(諸)科学」Staatswissenschaftenとよび、国家に関する哲学的研究を「国家哲学」Staatsphilosophie、国家に関する哲学的・科学的考察の歴史を総括的に「国家論」Staatstheorieと名づけて「国家学」と区別する。「国家学」はその内容において英米流の「政治学」と多分に重なるので、わが国では政治学にしだいにとってかわられるようになった。ドイツでは政治を広く社会現象とせず国家現象として限定的にとらえたので、政治学ではなく国家学が発達した。国家学においては、国家の社会的側面と法的側面のいずれに力点を置くかによって、その内容や取り扱い方法が異なる。法的側面を重視する場合、それは「国法学」Staatsrechtslehreともよばれ、憲法学に接近する。社会的側面を重視する研究は今日の「政治学」や「政治社会学」と重なる。第二次世界大戦後のドイツでは依然「国家学」の名を冠する本が出版されているが、「政治学」の研究も盛んに行われている。
[飯坂良明]
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…“ポリティカル”という形容は,研究の関心が国家をはじめとする公共団体の政策の問題にそそがれるということを含意している。政治経済学のドイツ語訳であるシュターツビッセンシャフトStaatswissenschaftつまり国家学という呼称がこのことをより端的に表している。またエコノミックスの語源がギリシア語のオイコス・ノモスつまり家政の法というところにあるということも,経済学が政策の問題と密接にかかわって発展してきたことを物語っているといえる。…
※「国家学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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