日本大百科全書(ニッポニカ) 「バナッハ」の意味・わかりやすい解説
バナッハ
ばなっは
Stefan Banach
(1892―1945)
ポーランドの数学者。関数解析学の創始者の一人。当時オーストリア領であったクラクフに生まれる。1910年クラクフの中学校を終え、1914年までリボフ(現、ウクライナのリビウ)の工科大学で勉強したが、第一次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)によりクラクフに戻り、数学の研究を続けた。1920年リボフ大学の助手となり、ここで学位論文をまとめた。これが今日の「バナッハ空間」を定義し、その性質を調べた論文である。修士論文は書いていなかったが、特別な計らいで博士の学位を与えられ、1924年にはポーランド科学アカデミーの通信会員となった。1929年にはスタインハウスHugo Steinhaus(1887―1972)と協力して関数解析の専門誌『Studia Mathematica』を創刊、これは今日では国際的な雑誌の一つになっている。
バナッハ空間とその上の線形作用素の研究だけでなく、三角級数論、直交関数論、測度論、実関数論に多くの重要な仕事を行い、なかでもハーン‐バナッハの定理やバナッハ‐スタインハウスの定理は、関数解析でももっとも重要かつ基本的な結果になっている。『線形作用素論』Théorie des opérations linéaires(1932)は関数解析についての世界最初のまとまった著作である。
[井関清志]