バナリテ(その他表記)banalités[フランス]

改訂新版 世界大百科事典 「バナリテ」の意味・わかりやすい解説

バナリテ
banalités[フランス]

西欧中世領主が,バンBannと呼ばれる支配権に基づいて一定の領域に大型の生産施設を設置し,それらを住民に強制的に使用させていた制度。対象となる施設は風車水車を備えた製粉場(粉ひき),パン焼きとビール造りに用いられるかまどブドウの搾り器などで,領民資力では困難なこれらの建設を,いわば恩恵的に実行した領主は,同時にそれらの所有を独占していた。そして,管理を領民の有力者に請け負わせながら,挽かれる穀物の20分の1というように,そこで処理される物資の一定割合を徴収していた。史料のうちに明白に登場するのは12世紀以降であり,当時減少傾向にあった領主収入の中で,相当量の現物を確保する財源として重要な役割を果たしていた。そのため,バナリテは領主層内部で争奪の的となっただけでなく,領主・農民間の闘争の一つの焦点ともなった。農民は使用強制を免れるために,小型の挽き臼を使うなど,消極的な抵抗を続けるとともに,村落共同体として使用料の引下げや使用強制の廃止を要求し,中世盛期以降しばしばそれに成功した。しかし,西欧の多くの場所では,バナリテは領主制の構成要素として近世まで存続した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バナリテ」の意味・わかりやすい解説

バナリテ
banalité; bannus

ヨーロッパ,特に中世のフランス,ドイツで,荘園の領主が独占的に所有する設備の使用を領民に強制した領主権。「禁制権」と訳される。封建地代一種とみなされる。領主は,領民の日常生活に必要な設備を独占的に所有,これを領民に強制的に使用させ使用料を徴収した。この設備には,パン焼き窯,製粉場(水車小屋),ブドウ圧搾設備,羊毛縮絨(しゅくじゅう)場,染色設備,製材場などが含まれ,領民がこれらの施設を所有することは禁じられた。これら設備は荘園制衰退とともに富農に賃貸される例も多かった。

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世界大百科事典(旧版)内のバナリテの言及

【結納】より

…結納が重要となったのは,嫁入婚,とくに村外婚が行われるようになってからとされる。結納は婚資bride‐wealthの一種であり,その額は他社会と比べ少額の類に入る。花嫁代償【植松 明石】。…

【持参金】より

…たとえば,初生子相続をとるパイワン族(台湾)では,男女とも婚入者の方が持参財をもって行く。一般に花嫁代償が女性の父親や親族に与えられるのに対し,女性の持参財は本人または夫婦単位内の財産として維持されるので,女子の相続財産とみなすこともできる。後者はユーラシアの諸民族に多くみられ,アフリカを中心とした花嫁代償の分布と対照をみせている。…

【年齢集団】より

…東アフリカ部族社会の複婚は一部の上層富裕層のみでなく,むしろこのようなメカニズムによることも一因だと考えられる。なおこの種の複婚の要因には,さらに青年男子では調達が困難な花嫁代償(婚資)が加わっている。つまり花嫁の出産力や労働力への代償として,これを受ける婿方が嫁方に贈るべき高額の代償(牛や羊または金品)の調達は年長者にずっと有利で,これが複妻取得を助長するわけである。…

【メラネシア人】より

…血縁集団レベルでは族外婚の規制をうけるが,地縁内婚がしばしばあり,そのために単一の共同体でほとんどの人々が親族,姻族の双方に結ばれている。結婚に際して男の親族集団から女の親族集団に贈られる花嫁代償(婚資),あるいは両者の間での富の平等な交換の交渉が妥結して,はじめて結婚が成立する。一夫多妻は多くの社会で認められているが,女に強く反発されており,ケースとしては多くない。…

※「バナリテ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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