スペインの〈98年代〉作家の一人。バスク地方の出身。マドリード大学で医学を学ぶかたわら文学に情熱を示し,ニーチェのニヒリズムや無政府主義の思想に染まる。〈懐疑〉〈厭世〉〈陰鬱〉の人生観に支配された苦悩の人物を描く反面,革命運動に一身をささげた冒険家を主人公にした大長編歴史小説《ある活動家の回想記》(1913-35)に見られるような行動的人間へのあこがれも強い。社会の矛盾に抗しきれず自殺してゆく青年の苦悩を描いた《知恵の木》(1911)は自伝的要素が濃い代表作である。三部作ものを好んだが,なかでも《人生のための闘い》シリーズ(1904)はマドリードの下層民の明日なき生活をリアルに描いたもので,作者の特徴をいかんなく発揮した作品である。ほかに,ペシミスティックな青年がニーチェ的な孤高の人をめざしながら,挫折してゆくさまを描いた《完徳への道》(1902)などがある。
執筆者:志賀 一郎
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…なお19世紀も末になるとフランスの自然主義が移入され,E.パルド・バサン,クラリンClarín(1852‐1901),V.ブラスコ・イバーニェスらがすぐれた作品を残した。
【〈98年世代〉から〈27年世代〉へ】
1898年の米西戦争の敗北で祖国が最後の植民地を失ったとき,スペインの後進性を痛感し,苦悩のうちに未来を模索した作家たちを〈98年世代〉と呼ぶが,その中心となったのは《生の悲劇的感情》で理性と信仰の葛藤を論じ,それをヨーロッパとスペインとの関係にまで広げたM.deウナムノ,古典文学の再評価を通してスペインの魂を探求したアソリン,スペイン文学史上最も完成された小説家のひとりに数えられるP.バローハ,詩集《カスティリャの野》で,荒涼としたカスティリャの風景の観照を通してスペイン(人)の本質をさぐったアントニオ・マチャードらである。概してペシミズムを基調とし,真のスペインを発見しようとした〈98年世代〉に対し,ヨーロッパの思想に沿おうとした知識人たちを20世紀の〈第2の世代〉と呼ぶ。…
※「バローハ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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