改訂新版 世界大百科事典 の解説
パラントロプス・ロブストス
Paranthropus robustus
前期更新世の頑丈型猿人の一種。アウストラロピテクス・ロブストスあるいはロブストス猿人ともいう。ロブストスは頑丈,パラは準あるいは副,アントロプスはヒトの意味。なお,頑丈なのは,頭と顔であって,体ではない。南アフリカのクロムドライ,スワルトクランス,ドリモレンなどで発見されている。模式標本は,1938年にブルームR.Broomがクロムドライで発見した頭骨と下顎骨(TM 1517)。年代は,化石が洞窟から発見されるので,東アフリカの多くの地域のように火山灰の放射性物質による方法は適用されていないが,東アフリカの古生物相との比較から180万~150万前と推定されている。
頭骨と顔面全体は,幅広く,奥行きが少ない。切歯と犬歯は非常に小さいにもかかわらず,小臼歯と大臼歯が巨大で,エナメル質が厚かった。側頭筋の付着部は上方に拡大し,頭頂部の正中に筋肉が付着する垂直な壁(矢状稜)が形成されている。咬筋の付着部である頬骨が広がり前方に移動したので,顔面全体が平らになった。鼻腔が小さいので,顔面の中央部が凹んで皿状になることもある。このような形態は,小さいが非常に硬い食物をかみ砕くために,咀嚼筋が発達し,それに見合う顔面構造が発達したと解釈されている。おそらく,乾燥した草原で,根茎類や種子を食べていたのであろう。骨を食べていたという解釈もあるが,多くの支持を受けてはいない。頭蓋腔容積(脳容積より約10%大きい)は450~550mlと推定され,アウストラロピテクスよりもやや大きい。体の骨も発見されているが,形態やサイズは他の猿人と本質的な差はない。骨盤は非常に幅広く,安定した二足歩行が可能であったことがわかる。身長は,140~150cm,体重は25~50kgと推定されている。ロブストスの手の親指の骨は頑丈であり,先端が磨り減った動物骨が出土することから,それを使って根や球根を掘り起こしたといわれるが,はっきりしない。
→化石人類 →頑丈型猿人
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報