パンジー(読み)ぱんじー(英語表記)pansy

翻訳|pansy

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パンジー」の意味・わかりやすい解説

パンジー
ぱんじー
pansy
[学] Viola × wittrockiana Hort. ex Gams
Viola tricolor L. var. hortensis DC.

スミレ科(APG分類:スミレ科)の半耐寒性一年草。和名サンシキスミレ三色菫)とよぶが、これは学名ビオラ・トリコロルを訳したものである。日本ではこの系統のものをすべてパンジーの名でよんでいるが、欧米では、ビオラ・トリコロルのうち園芸品種の系統をパンジーとよび、野生種の系統はハートシーズheartseaseとよんで区別している。北ヨーロッパ原産のスミレから改良されたもので、春の花壇鉢植え用とするほか、切り花にも利用する。栽培はすでに、近世紀の初めにはヨーロッパの庭園で行われていたといわれるが、その種類は野生種に近いものであったらしい。日本には江戸時代に渡来し、ユウチョウカ(遊蝶花)などとよばれて親しまれてきたが、品種改良に着手したのはそれほど古くはない。

 高さは15~30センチメートル、茎はやや直立するか横に広がり、多数分枝する。基部の葉は卵円形であるが、上部はやや細長いへら状になる。花は葉腋(ようえき)から出る1花柄の先に1花をつけ、花径は3センチメートルから12センチメートルまであり、小・中・大輪種がある。花色は黄、紫、黒の3色が主体をなすが、そのほか、青、白、赤褐、橙(だいだい)色などがあり、またこれらの複色のほか、ほぼ1色の単色種もある。開花期は11月から翌年の6~7月に及ぶが、普通は3月から5~6月までが観賞の適期である。

 欧米および日本で品種改良が盛んで、一代雑種(F1)が多数作出されている。品種は大別すると、現在栽培されているパンジーの大部分を含むガーデンパンジーgarden pansyと、西フランス産のコルヌタ種から育成された小輪多花性のタフテッドパンジーtufted pansyに分けられる。ガーデンパンジーにはまたいくつかの系統があり、巨大輪のマジェスチックジャイアント系、中輪多花性の二十世紀シリーズ、クリスタルシリーズなどがある。このほか、鉢植えやプランター用として、シャロンジャイアント系、スイスジャイアント系などがある。またタフテッドパンジーには、マジシャン、キングヘンリーなどがある。

[鶴島久男 2020年7月21日]

栽培

普通は8月下旬から9月上旬に種子を播(ま)くが、この時期は高温すぎて、発芽適温が10~15℃のパンジーには条件が悪いので、半日陰で通風のよい所で発芽させる。発芽後半月くらいで一度仮植えし、本葉5、6枚のころに冬越しさせる植床に定植する。このとき堆肥(たいひ)のほか化成肥料などを植床に鋤(す)き込む。冬越しは関東以西では簡単な霜よけを北側につくるだけで十分であるが、寒冷地ではフレームなどに定植する。寒さによく耐え、霜よけ下で1月下旬ころから開花するが、寒中はこれを鉢にとって室内で管理し、3月下旬ころ花壇または鉢に植える。花壇の場合はよく育った株を20~25センチメートル間隔で植える。鉢植えには大輪系品種が、花壇には一代雑種の単色の品種などをまとめて植えるとよく似合う。

[鶴島久男 2020年7月21日]

文化史

パンジーの原種はビオラ・トリコロルViola tricolor L.で、16世紀中ごろにはイギリスで栽培下にあったが、改良が進んだのは19世紀以降である。それには、さらにビオラ・ルーテアV. lutea HudsonやアルタイスミレV. altaica Ker-Gawlerなど数種が関与した。イギリスでは退役した海軍提督のガンビア卿(きょう)が、30年に及ぶ育種で観賞パンジーをつくりあげた。花弁の付け根に黒い斑点(はんてん)のあるパンジーは、1830年ごろ野生の変異のなかから彼がみいだし、育成した。19世紀にはフランス、ドイツでも改良が始まり、20世紀にはスイス、アメリカが加わり、第二次世界大戦後は日本で優れた品種が作出されている。

 シェークスピアは『真夏の夜の夢』で、パンジーを媚薬(びやく)として使い、眠っている間にその花汁をまぶたに塗られると、目覚めたとき、最初に見たものに恋をするという喜劇を描いた。パンジーの名はフランス語のパンセ(考える)に由来するが、それはパンジーのつぼみが下を向き、頭を垂れて物思う姿を思わせるからである。

[湯浅浩史 2020年7月21日]


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パンジー

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