日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒカリイシモチ」の意味・わかりやすい解説
ヒカリイシモチ
ひかりいしもち / 光石持
sea urchin cardinalfish
[学] Siphamia tubifer
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科ヒカリイシモチ族に属する海水魚。日本では八丈島、小笠原(おがさわら)諸島、屋久島(やくしま)、南西諸島から知られているが、世界では台湾南部、マーシャル諸島、カロリン諸島など西太平洋、インド洋に分布する。体高は比較的高く、側扁(そくへん)し、体高は体長の約37~41%。頭は大きく、およそ体高に等しい。目は吻長(ふんちょう)よりも大きい。口が大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央部下を越える。上主上顎骨はない。上下両顎、鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に絨毛(じゅうもう)状の小さい歯があるが、犬歯はない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隆起線は円滑で、縁辺は円滑か鋸歯(きょし)状。鰓耙(さいは)は上枝に1本、下枝に7~9本。側線有孔鱗(ゆうこうりん)数は20~23枚。背びれは胸びれ基底上方から始まり、2基でよく離れ、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘8~9軟条で、第1背びれの第3棘はもっとも長い。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方近くから始まり、2棘8~9軟条。胸びれは13~14軟条。腹びれは胸びれ起部より前方から始まる。尾びれの後縁はわずかに湾入する。体は一様に暗銀白色で、普通は体側に3本の縦帯がある。第1帯は目の上縁から第2背びれ後端を経て、第2帯は吻端から目を横切り、そして第3帯は下顎端から胸びれ起部を経てそれぞれ尾柄(びへい)に達する。死後、体側に多くの小さい橙(だいだい)色の斑点(はんてん)が出現する。各ひれの鰭膜(きまく)は淡色。発光バクテリアと共生型の発光をする。外部からは見えないが豆状の発光器が腹腔(ふくこう)内にあり、管で腸管の始部に開口し、発光バクテリアを発光器内に取り込み、そこで繁殖させて発光させる。体の腹面に咽頭(いんとう)部から臀びれ基底に沿って尾びれ基底まで達する透明な筋肉層があり、光を拡散させる。浅いサンゴ礁や岩礁域に生息し、ガンガゼ類の棘の間やその近辺で群生する。最大体長は4センチメートルほどにしかならない小形種。
魚類学者の馬渕浩司(まぶちこうじ)(1971― )らによる2014年(平成26)のDNAの研究結果に加えて、バクテリア共生発光器系筋肉が胸部から尾柄まで達するなどの特徴により、ヒカリイシモチ族が創設された。本族には本種が属するヒカリイシモチ属しか含まれない。同属には日本から本種以外に3種が知られており、マジマクロイシモチS. majimaiは第1背びれ棘が6本であることなどで、イナズマヒカリイシモチS. tubulataは胸びれ軟条が11本であることなどで、そしてセノウヒカリイシモチS. senouiは胸びれ軟条が12本であることなどで本種と区別できる。イシモチは高知県、和歌山県などで使われているこの類の呼称に由来する。
[尼岡邦夫 2023年4月20日]