改訂新版 世界大百科事典 「ヒクイドリ」の意味・わかりやすい解説
ヒクイドリ (火喰鳥)
cassowary
ダチョウ目(またはヒクイドリ目)ヒクイドリ科Casuariidaeの鳥の総称。この科にはオオヒクイドリ,パプアヒクイドリ,コヒクイドリの1属3種があり,またオオヒクイドリを単にヒクイドリと呼ぶこともある。大型の走鳥類の一つ。オオヒクイドリは頭高1.8m,体重85kgに達し,現生の鳥類ではダチョウに次いで重い。一見エミューに似ているが,ヒクイドリ類は頭上に角質のかぶと状突起をもっている。羽毛はエミューの羽毛のように固い毛状で,翼は退化し,風切羽も羽軸だけで羽弁がない。頭頸(とうけい)部は皮膚が裸出し,オオヒクイドリとパプアヒクイドリでは前頸から肉垂(にくだれ)が垂れ下がっている。これらの皮膚の裸出部は,青色,赤色,黄色,橙色などにいろどられている。尾羽はない。脚とあしゆびはきわめて強大で,あしゆびは3本。つめも強大で,とくに内指のつめは長く,約10cmもあり,人間さえ殺すことができる。事実,ヒクイドリの成鳥はきわめて危険な動物である。羽毛は黒色で,雌雄は同色だが,雌のほうが雄より大きい。
ニューギニアとその周辺の島々およびオーストラリア北東部に分布する。ジャングルの中に単独か家族単位の小群ですみ,果物,漿果(しようか),若葉,昆虫類や小動物などを食べている。走るのは速く,泳ぐのもじょうずである。飛ぶことはできない。人を恐れるので,姿を見る機会は少ないが,うなるような声でその存在を知ることができる。繁殖期には非常に攻撃的となり,つがいでなわばりを守る。巣は森林中の地上のくぼみにいくらかの枯枝,葉,草などを敷いただけで,1腹3~8個の卵を産む。卵は表面が多少粗く,色は濃緑色。雄だけで約50日間抱卵する。雛はクリーム色に暗色の縦縞があり,雛の世話も雄だけでするようである。
ニューギニアの原住民は雛をとらえて飼育し,成鳥にまで育てて祭りのときのごちそうにする。各地の動物園でもよく飼われていて,繁殖もする。しかし飼育下での繁殖は,ダチョウ,レア,エミューなどよりむずかしい。ヨーロッパに初めて活鳥が輸入されたのは1597年といわれ,日本にも徳川時代に生きたものが渡来している。代表種のオオヒクイドリCasuarius casuariusはニューギニアとオーストラリア北東部(ヨーク岬半島部)の熱帯多雨林に生息する。パプアヒクイドリC.unappendiculatusとコヒクイドリC.bennettiはニューギニアとその付属の島々に生息し,前者は低地に,後者は山地に分布している。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報