改訂新版 世界大百科事典 「ヒシバッタ」の意味・わかりやすい解説
ヒシバッタ (菱蝗)
直翅目ヒシバッタ科の昆虫の総称,またはそのうちの1種。ヒシバッタAcrydium japonicumは,体長7~11mmの小型の虫で,背面から見ると全体がひし形に見えるのでこの名がある。日本全国にふつうに見られ,アジア東部にも分布する。土色で,前胸背板の背部には黒色紋その他をもつが,まったく消えてしまうタイプのものまでいろいろの型がある。小さいながらもバッタのような頭部をもち,触角は細く糸状。前胸背板の後縁は腹端にまで達する。前翅は退化して鱗片状,後翅は腹部と同じくらいの長さで,扇子状にたたまれ体に密着させており,これで飛ぶことはない。後肢腿節は幅広くなって,細い脛節(けいせつ)とともに強い飛躍肢を形成している。草地や畑地の地面上にすみ,しばしば農作物を害することがある。
ヒシバッタ類Tetrigidaeはバッタ類に近縁で,いずれも小型,大きいものでももっとも小さいバッタ程度の大きさにしかならない。前胸背板が後方へ強く伸長し,腹部のほとんどを覆ってしまう特徴がある。前・後翅の形はヒシバッタのそれらに似る。後翅でよく飛ぶ種もある。熱帯に多く,全世界に約1000種が知られている。日本ではヒシバッタのほか,ハネナガヒシバッタEuparatettix histricusやトゲヒシバッタAcanthalobus bispinosusなどが知られている。
執筆者:山崎 柄根
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報