ヒゼンダニ(読み)ひぜんだに(英語表記)itch mite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒゼンダニ」の意味・わかりやすい解説

ヒゼンダニ
ひぜんだに
itch mite
scabie mite
[学] Sarcoptes scabiei

節足動物門クモ形綱ダニヒゼンダニ科に属するダニ。疥癬虫(かいせんちゅう)ともいう。体は円形で、約0.4ミリメートル。体表に鱗(うろこ)状の棘(とげ)があり、第1・第2脚には柄をもった肉質盤を備える。ヒトの皮内にトンネルを掘って生活し、体表に出ると毎分2.5センチメートル以上の速さで移動する。卵→幼虫→若虫→成虫の齢期があり、約2週間で卵から成虫に達する。この間に死亡する個体も多く、成虫になるのは卵の約1割だという。寄生する部位は、手の指間、鼠径(そけい)部、関節内側などで、ときに全身にわたることがある。寄生初期には、小丘疹(しょうきゅうしん)や紅斑(こうはん)が現れ、水疱(すいほう)や膿疱(のうほう)ができ、かゆみを伴う。やがて痒(よう)感は激しくなるが、これはダニの脱皮殻、代謝産物死骸(しがい)などによって皮膚が感作されるためで、やがて頑強な皮膚病である疥癬に移行する。ただし、寄生数が少ないと、定形的な疥癬症状にはならないことが多い。治療には、硫黄(いおう)剤や殺虫剤含有軟膏(なんこう)を外用する。感染は、接触によるほか、衣類寝具を介して伝わることがあり、当宿室内で集団発生した疥癬の報告がある。

 イヌウシブタヒツジなどに、ヒトに寄生するものと形態的に区別できないヒゼンダニがみられ、皮膚病の原因となっている。これらの家畜からダニは人体へ移行し、疥癬のような症状をおこすが、一過性のもので約10日で自然治癒する。このことから、ヒトに寄生するヒゼンダニと家畜のそれとは、生理的に異なる系統に属すると考えられ、分類上それぞれを亜種扱いする学者もいる。

[内川公人]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒゼンダニ」の意味・わかりやすい解説

ヒゼンダニ
Sarcoptes scabiei; itch mite

クモ綱ダニ目ヒゼンダニ科。体長 0.4mmで円形。脚は短く,体表に無数の横皺がある。ヒトの皮膚,特に指のつけ根,関節の内側,鼠径部などを食害して,孔道をつくって繁殖する。咬まれると最初に小さな丘疹ができ,続いて水疱や膿疱となり,激しい痛み,かゆみを伴う。2週間ほどで卵から幼虫,若虫を経て成虫になる。すべてヒトの皮膚上に見出される。ヒゼンダニ科 Sarcoptidaeにはイヌ,ネコ,その他の家畜などにいわゆる疥癬という皮膚病を起す種が多い。 (→ダニ類 )

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