精選版 日本国語大辞典 「ねこ」の意味・読み・例文・類語
ねこ
- 〘 名詞 〙 =ねこだ
一般には,家畜のネコ,すなわちイエネコを指すが,広義には食肉目ネコ科の哺乳類の総称として用いる。
イエネコ(飼いネコ)Felis catusの家畜化の歴史はイヌに次いで古く,アフリカからインドにかけて分布するリビアネコを家畜化したものとされる。ネコの家畜化は人類の居住地近くに生息する齧歯(げつし)類の捕食や腐肉をあさることができる機会を利用することから始まるもので,イエネコの出現に人類が果たした役割は能動的ではなく,むしろ受動的であった。
前5000年ころのイェリコ遺跡からはネコ(おそらくは野生のもの)の遺体が発見され,前2000年代中ごろの,古代エジプト第5王朝時代のものとして,首輪をつけたネコの絵が残っている。明白な家畜のネコが普及したのはエジプトの前950-前880年とされ,ヨーロッパに入ったのは8世紀,日本へはアフリカ,ヨーロッパ,アジアを経て,中国から仏教伝来の際に経典を鼠害から守る役目として渡航してきたと伝えられている。また漁夫のマスコットとしてシベリアから渡来したという説もあるが,日本に中国から入った確実な記録は884年(元慶8)である。日本では近年,外国産の純粋品種が増加しているが,これらとの少数の交雑種を除けば,ニホンネコ(日本猫)は長年月の間,ほとんど純粋品種を保っている。
執筆者:一木 彦三
イエネコの祖先型はリビアネコを家畜化したものであったが,その後ヨーロッパヤマネコとの交配が行われたもようで,ユーラシアのものにはヨーロッパヤマネコに似た斑紋のものが多い。しかしジャングルキャット(チャウス)が混血している気配は,毛色や斑紋の酷似したインドのイエネコにさえも,まったく認められない。もちろん別属のベンガルヤマネコなどとの混血は考えられない。
イエネコは体長36~55cm,体重2~7.5kg。尾端はリビアネコのようにとがり,ヨーロッパヤマネコのように尾が太く先が丸いものは見られない。また多くは背すじにやや長い毛の毛冠があり,逆立てることができる。耳の先には短い毛房がある。これらの点もリビアネコに一致し,ヨーロッパヤマネコとは異なる。しかし,リビアネコと違って肩の斑紋が鮮明で背すじの暗色部が顕著な,ヨーロッパヤマネコによく似た個体も少なくない。乳頭は腋(わき)と胸に3~4対ある。
イエネコの毛色や斑紋は一見千差万別であるが,斑紋にははっきりした三つの型があり,すべての個体がそのどれかに属する。(1)虎斑(とらふ)型 ストライプトタビーまたはたんにストライプト,虎ネコ,雉(きじ)ネコなどといわれるもので,体側にはトラのような横縞,または横に並んだ斑点がある。背すじは黒いが,鮮明な縦縞はない。(2)輪斑型 ブロッチトタビーまたはたんにタビーといわれるもので,体側に輪状,または渦巻状の幅の広い黒帯があり,背すじには3本の鮮明な縦縞がある。ヨーロッパではごくふつうであるが,日本ではまれ。(3)チャウス型 ジャングルキャットのように,暗色の斑紋が四肢の基部,尾端部および体下面に限られるもので,インド北部ではふつうであるが,他の地方ではほとんど見かけない。
以上の3型とも本来の毛衣の地色は灰褐色であるが,突然変異で生じたと考えられる黒変型,赤変型,白変型およびブルー型などの色相があり,それらでは全身が黒色,赤褐色,白色または石版灰色などである。またこれらの毛色が部分的に現れて,〈ぶち〉を形成することが多い。黒,赤,白のぶちはいわゆる三毛(みけ)で,この型には雄がまれである。しかしいっそう雄がまれで,99%雌だといわれるのは,白い部分のない黒と赤のべっこう型(トータシェル)である。黒,赤,白,ぶちなどの色変型(色相)でも,本来の斑紋の型はつねに保たれており,虹彩が青く体毛が純白の,純粋の白変型においてさえも,反射光によって本来の斑紋を認めることができる。
体毛は本来は短毛かつ直毛であったが,長毛のものやちぢれ毛のもの,さらに無毛のものまでできている。また尾は本来が長尾であるが,ニホンネコでは長さ25cmから4cm前後の短いものまで,あらゆる段階のものが見られる。マライネコでは長さ10cm前後で,先の骨が曲がったものが多く,この品種はマダガスカルにも移入されている。イギリスのマン島のマンクスは尾がないといわれるが,ふつうは長さ2.5cm前後のごく短い尾がある。短尾のものはロンドンでも見られるという。
ネコの品種はイヌほど顕著ではなく,分類も整理されておらず,色相と品種がしばしば混同されている。色相には,品種にかかわりなく現れるものと,特定の品種に限って現れるものとがあり,一般には前者に単色,三毛,タビー(輪斑型),ストライプト(虎斑型)を区別する。しかし,これらのうちタビーとストライプトは,前述のように異質のものである。単色には全身が白色の白(虹彩は青色),石版色のブルー(虹彩はオレンジ色),黒色の黒,淡い黄褐色または灰褐色のクリーム,赤みをおびた褐色のジンジャー(赤褐色)などがある。品種は短毛種と長毛種に大別される。
フランス原産のカーシュージアン(カルトネコ。毛色はブルーで淡灰色~暗青灰色,虹彩はオレンジ色,体はがんじょうで顔は幅が広い),ロシアンブルー(アメリカンブルー,マルチーズ。毛色はブルーで虹彩は緑色,体と顔は細い),シャムネコ(シャム。毛色は灰褐色で顔,四肢,尾が暗色,体が細く顔は三角形),アビシニアン(毛色は黄褐色で毛の基部は黄赤褐色,体は細く,顔は三角形で頭を高く保ち,古代エジプトのネコによく似ている),セーブル(アメリカではビルマと呼ぶことがある。毛はチョコレート色で光沢があり,虹彩は緑色)などのように,毛色がほとんど一定しているものと,ヨーロッパネコ(頭が丸く左右の耳の間が広い。長尾),マンクス(尾がごく短く,後肢が長い),ニホンネコ(一般に小型で,輪斑型はまれ,尾は長短不定)などのように,ほとんどの色相が見られるものとがある。
ペルシアネコ(ペルシア。鼻が短く,チンのようにしゃくれ,体はがんじょう),アンゴラ(鼻は正常で,体は細い。ペルシアネコとともに原産地は不明で,名称の地名とは関係がない)のように多くの色相があるものと,ビルマ(体は淡いクリーム色で,頭,四肢,尾が暗褐色,足の先は白色,虹彩は青色)のように毛色が一定しているものとがある。ビルマはペルシアとシャムを交配してつくり出すことができる。ペルシアは虹彩の色でオレンジアイ,ブルーアイ,グリーンアイに分けられ,毛色はブルーアイの場合は白色に限られるが,グリーンアイにはチンチラとシルバーがある。しかしオレンジアイにはあらゆる色相が見られる。
以上のほか虹彩が片方がブルーで他がオレンジのオッドアイ,全身が無毛のヘアレスキャットなどもあるが,これらは固定した品種ではなく,いろいろな品種に起こりうる。ヒマラヤンはペルシアネコとシャムネコを交配して1950年代に新しく作出された。
ネコはイヌやサルとともに表情の豊かな動物である。攻撃に出ようとするときには耳介の前面(内面)を横に向け,後面(外面)にある淡色部を相手によく見えるようにする。これは仲間どうしの場合は攻撃の信号となる。防御の姿勢では,耳介を後側方に伏せて歯をむき出し,威嚇の姿勢では,四肢を接近して立て,背を丸めて,背すじと尾の毛を逆立て,尾を側方にのばして体を大きく見せる。そして,うなり,つばきをはきかける。イヌなどが近づくとこのような威嚇の姿勢をとり,一定の距離に近づくと目や鼻をねらってつめを立てる。イヌがひるむと,そのすきに逃げる。またなにかに興味をそそられているときには尾の先端部をくねらせ,心持ちよい場合にはのどをゴロゴロ鳴らし,相手に親しみを示すときには尾を垂直に立てて腰部またはしりをすりつける。このような表情はネコ族に共通なだけでなく,チーター族ともほとんど共通している。
ネコは単独生活者で,一定のなわばり(テリトリー)を占有する。そこはふつう他のネコの侵入を許さない地域で,飼主の家とその庭がこれに当たることが多いが,これよりずっと狭いこともある。この中には,休息したり日光浴をしたりする地点が含まれている。なわばりのまわりにはハンティングエリアがある。これは名まえのように獲物をとらえるためのいくつかの狩場と,なわばりとそれらを結ぶ通路および集合所からなる。ここは隣接した地域にすむネコとの共有地であるが,見知らぬネコが入ってくると追い払う。集合所にはハンティングエリアを共有するネコたちが集まってきて時を過ごす。通路には,肛門腺の分泌液を混じた尿をかけたり,糞をしたりする地点や,つめをとぐ一定の木があり,他のネコとのコミュニケーションに使われる。
なわばりとハンティングエリアを合わせたものが,ふつうの行動圏であるが,その広さはだいたい30~50haといわれる。しかしハンティングエリアの広さは,獲物の密度によって大幅に異なる。ネコは行動圏を取り巻く地域のイメージを,聴覚に基づいて脳の中につくりあげており,繁殖期に遠征するようなときにもまごつかない。
食物は半野生の生活を送っているものでは,小型のネズミや小鳥,トカゲ,カエル,カニ,バッタなどの昆虫などで,モグラ,ジネズミ,トガリネズミなどは殺すが悪臭があるため食べない。ハツカネズミでは1日に20匹くらい食べるといわれる。狩りは昼間も行うことがあるが,主として夜行う。モグラなどを狩る場合には,地下の浅いところにモグラのトンネルが通じている適当な地点で待ち伏せていて,モグラがそこに近づくと掘り出してとらえる。この際,10万Hzまでの超音波を聞きうる鋭敏な耳が大いに役だつ(なお聞きうる音波の上限は,人間が約2万Hz,イヌが6万Hz,ネズミが7万Hzである)。また獲物によっては忍び寄りもする。体を低く伏せ,草むらや石などに身を隠して,音を立てずに獲物に接近し,一定の距離まで近づくと立ち止まり,前肢を後ろに引き背を丸めて,跳びかかるチャンスをうかがう。忍び寄りの際には,上くちびる,下あご,目の上,ほおなどにある触毛を立てて広げる。すると触毛の先端は,ネコの頭が通過できる円を形成するので,獲物を両方の目で見つめたまま,やぶの中の隙間を探って,音を立てずに前進することができる。大きな獲物に跳びかかったときは,首にかみつき,頸椎(けいつい)の関節部を犬歯(きば)で探り,骨のない部分に犬歯を突き刺す。こうして脊髄を破壊し,ほとんど瞬間的に獲物を殺す。この殺し方はネコ族に共通である。獲物が小さい場合は,前足でおさえてからかみつく。
繁殖期は不定であるが,発情は1~3月と5~6月に多く見られる。発情期に入る前になると,雌は下あごを他物にこすりつけて歩く。下あごには特殊なにおいを出す腺があり,発情期にはそれがとくに発達するらしい。そのころ,雄はハンティングエリアを離れて遠くまで出かけ,他の雄に出会うと戦い,勝利者は雌に求愛する。しかし雌は,いちばん強い雄をつがいの相手に選ぶとはかぎらない。妊娠期間は63~65日で,1腹4~6子(まれに9子まで)を生む。子は生後3週間は巣の中にいて母親の乳を飲んでいるが,4~5週目になると母親は食物を運んできて子に与える。2ヵ月半~3ヵ月になると生きた獲物を運んできて,子にとらえ方を教え,ほぼ同じころから狩りに子を連れていくようになる。子は母親の狩りを目で見て会得する。
雌は1歳で性的に成熟し,年に2~3回出産することができる。繁殖力は9歳ころまである。寿命はふつう12年前後であるが,24年も生きた例がある。
執筆者:今泉 吉典
ネコはイヌと異なり,どの種類でも体格の差は非常に小さく,出生時の体重は約100gで,6ヵ月まで急速に成長し,約20倍になる。その後はゆるやかに成長し,雄は9~12ヵ月,雌は8~10ヵ月でほぼ成体の大きさに達する。したがって離乳期から6ヵ月齢までの飼育管理が非常に重要である。性的な成熟は,雌雄とも7~12ヵ月齢であるが,雄が性行動を始めるのは通常9ヵ月齢以降である。成体雄の体重は3.2~5.0kg,雌2.5~3.5kgくらいである。
ネコは習慣的にも,またイヌのような法律的な制約もないことが多く,家の内外を自由に出入りすることが多いが,屋内のしつけはとくに厳重に教える必要がある。初めてネコを飼う場合は離乳期の子ネコを求めることが望ましい。
第1に必要なのは排泄のしつけである。部屋の角など,ネコが安心できる場所に排泄箱を置き,砂などの敷屑(市販のものもある)を入れ,必ずその中で排尿,排便するようにしつける。このしつけは,ネコが若ければ若いほどよく覚え,飼い初めの直後から教えるのがよい。排泄をもよおすようすはわかりやすいので,発見したら速やかに排泄箱の中へ入れてやる。ネコはすぐ覚え,また少し大きいケージの中に排泄箱を置いて飼えば,自然に利用する。ネコは非常にきれい好きで,排泄箱を幾日も放置すると箱の外で排泄するようになるので,敷屑を頻繁に取り替え,つねに清潔に保つ必要がある。
少し大きくなると,家具や柱,壁などを使ってつめとぎを始める。これはネコの本性でやめさせることはできないが,傷つけても差支えない板などを与え,それでつめとぎを行ったときにほめるようにすれば,これも容易に覚え,むやみに家具や室内を傷つけないようになる。
屋外を自由に走り回るネコにはとくに運動をさせる必要はないが,屋内飼育では,ネコは動くものに強い興味を示すので,ピンポン球や紐につるした煮干しや玩具などでからかいながら遊んでやると,本能的な獲物をねらう動作でよく遊び,運動する。動かない玩具のネズミなどを与えても興味を示すことはない。また子ネコのときから遊びとともに,なでたり,抱いたり,ころがしたりして,人に触れられることになれ楽しむようにさせることがたいせつである。成長してから急にかわいがったり抱いたりすると恐怖を覚え,つめで引っかいたり,かみついたりして,病気のときには投薬もできない怒りっぽいネコになってしまうことがある。
子ネコのときはどの種類でも非常にかわいらしく人なつっこいが,成長するとイヌと異なり,孤独を楽しむかのように家族をさえ無視する態度を示すことがある。これは,ライオンを除く孤立して行動するネコ属の特徴で,イヌのように人べったりでないところがまた愛猫家の好む性質でもある。しかし,そのなわばり(通常飼主の家)には非常に強い執着心をもち,飼主の家族のみが同じなわばりをともにする仲間であると信じ切っている。したがって家族の一員として終生,愛情をもって飼う必要がある。
ネコは子ネコの当時から食べなれた食物を生涯好む習性があり,いかに栄養豊富,かつ美味で,ネコが好むはずの動物質でも,経験のない食物は食べない。したがって,幼時に変化に富んだ食物を与え,学習させることが望まれる。かわいさのあまり,好んで食べるいきのよいアジだけしか与えないのは,人為的にネコの健康を損ねる偏食を強いることになる。現在はネコ用の魚類の缶詰が多く市販されているが,すべての栄養素をNRC(National Research Councilの略)標準に基づいて調製し,市販されているキャットフードのほうが推奨される。
ネコのもう一つの食性は草を食べることである。庭の雑草(葉の細長いイネ科草本を好む)をよく食べ,室内飼育では鉢植えの草花や盆栽の葉を食べてしまう。これは野生のネコ属にもみられる習性で,イヌにも時折みられる。その意義は種々推測されてはいるが,明らかではない。ネコは汚れた体を丹念になめてきれいにする習性があり,その際に多くの被毛(ひもう)を飲み込んでしまう。これらの被毛は消化管の中で毛球(けだま)と呼ばれる塊をつくり,消化障害を起こし,ときには腸閉塞を起こして死亡することもある。ネコが摂取した草は,これらの被毛をからませて吐き出す役割をしていることは確かのようである。現在は室内飼育のネコ用に,鉢植えの〈ネコ草〉が市販されている。
歯は岳状の典型的な切縁歯(せつえんし)で鋭く,動物の皮膚や筋肉を引き裂くのに適している。とくに犬歯は鋭利で,ネズミなどはひとかみで頸椎を切断できる。舌の表面にはとげのような硬い突起が一面にあって,これも肉を骨からそぎ取ったりするのに非常に役だつ。
ネコは肉食獣であるが,イヌのようにがつがつすばやく食べることはせず,背を丸め,体を小さく見せるようにして静かに,なめるように採食する。これは外敵の目を逃れ,安全な場所で落ち着いて獲物を食べる野生時代の習性を表していて,食事中に脅かしたりすると,肉塊や魚をくわえてさっと逃げ,戸棚などの陰に隠れ,それからおもむろに食べる。したがって,食物は静かに落ち着いて食べられる場所で,食器を盆のような広い面の上に置いて与えるのがよい。
胃は大きく食いだめができるほどで,そこでは強酸性の胃液と強い蠕動運動で食物を混和し,泥状の半消化状態にして少しずつ小腸へ送る。小腸はイヌよりさらに短いが,食物は膵液(すいえき),胆汁,十二指腸液などの消化液で中和され,アルカリ性になる。消化吸収の大部分はここで行われ,口から胃までの消化管は単に補助的な役割を果たすにすぎない。大腸は主として水分を吸収し,糞便を固形にして体外へ排泄する。
昔から〈ネコに鰹節〉といわれるように,魚類はネコの大好物である。これは,日本人の食生活の影響を受けてきたもので,ネコは魚類に限らず,肉類など動物質を主食とする。なじみ深い残飯に鰹節では十分な栄養をとることはできない。それでも放飼いのネコが栄養失調に陥らないのは,ネズミ,カエル,昆虫などを捕食することでみずから不足する栄養を補うためであるが,都市や都市近郊では,ごみ箱など人間の残飯をあさり,必ずしも栄養を満たすことはできないばかりでなく,衛生上も問題が多い。
タンパク質と脂肪は動物質から十分得られ,炭水化物としては米飯,パン,うどんなどがよく与えられるが,ネコのエネルギー代謝はタンパク質と脂肪が主で,その利用率は非常に高く,炭水化物は必ずしも必須ではない。しかし,調理された炭水化物の食物中に含まれる割合が20%までの場合は,その90%以上がよく消化吸収され,熱源として利用されることが知られている。したがって飼いネコには動物質を主体とし,炭水化物は50%を超えないことが望ましい。骨格の形成にはミネラル(とくにカルシウムを豊富に含む骨粉など)が必須で,動物性タンパク質とともに与える。もう一つの必須栄養素はビタミン類であるが,ネコの場合,ビタミンCは体内で合成するので,その欠乏に陥ることはない。しかし,B1の必要量はイヌの5倍にも及び,炭水化物の消化吸収には必須である。とくに激しい運動や疾病のときにはより多く消費し,ネコのB1欠乏症は意外に多い。ネコは草食獣のようにカロチンをビタミンAに転換する能力はないので,Aを豊富に含む家畜や魚の肝臓などを摂取させる。Dは体表で合成され,被毛をよくなめる習性から,その欠乏に陥ることは少ない。
日本では主要動物質として魚類をネコに与えることが非常に多い。魚肉は多量の不飽和脂肪酸を含むが,変性しやすく,ネコの体に蓄積された脂肪が変質すると黄色脂肪症を起こす。これは脂肪代謝を損ない,疾病にかかりやすくなり,皮膚の傷や手術創は非常に治りにくくなる。このとき,体内の脂肪は汚れた茶褐色を帯びた黄色を呈している。黄色脂肪症の治療や予防にはビタミンEが必須で,Eは脂肪代謝に重要な役割を果たしている。ビタミンKは体内で合成される。
ネコの病気は種々あるが,飼主が知っていることが望ましい病気を次にあげる。
(1)汎(はん)白血球減少症 ネコ・ジステンパーとも呼ばれ,病原はウイルスでどの年齢のネコにも感染するが,子ネコがもっとも冒されやすい。発熱,嘔吐,下痢およびこれらに付随する諸症状を現し,白血球数の減少が特徴である。軽症の場合もあるが,死亡率は高い。しかしワクチンがあり,幼若期に2~3回,成体では年に1回接種を受けることで予防できる。
(2)呼吸器感染症 病原は大部分がウイルスで,そのほか,細菌やクラミディアによるものもある。この疾患も幼若ネコがよく冒され,ヒトの感冒のような症状を現す。日常の飼育管理,とくに栄養が行き届いていれば,発病しても治療で助けられることが少なくない。予防ワクチンはない。
(3)伝染性腹膜炎 ウイルスが原因で散発的に流行するが,冒されるのはほとんどが幼若ネコである。高熱,元気・食欲の低下・消失,腹水貯留による腹囲の膨大などが特徴で,数週間ないし2~3ヵ月の経過で死亡する。治療は対症療法しかなく,予防ワクチンもないが,大流行はみられない。
(4)白血病 ネコ白血病ウイルスによって起こる血液の癌であるが,感染しても必ず白血病になるわけではない。しかし,他の病気に対する抵抗力の低下,貧血,腎不全など多彩な症状を現すやっかいな感染症である。
(5)消化器寄生虫症 寄生虫としては,カイチュウ(回虫),コウチュウ(鉤虫),ジョウチュウ(条虫)などがおもで,いずれも糞便中に排泄される卵の経口感染によるが,条虫はノミが媒介することが多く,その寄生率は非常に高い。しかし,検便で診断することができ,駆虫も比較的容易である。そのほかにはコクシジウム症があげられる。この病原虫は3種類が知られており,そのうちの一つはあまり多くはないがトキソプラズマ症と同じ病原体である。これらはいずれも検便で診断でき,治療も可能で恐れる必要はない。トキソプラズマ原虫はヒトにも感染し,妊娠初期の婦人が初めて感染すると胎児に影響を及ぼすことがある。しかしすでに感染していて抗体を保有する場合には心配はない。ネコの飼育管理(とくに排泄物の始末)が正しければ,ネコからヒトが感染することはなく,むしろ生肉を調理した際,手指をよく洗うように心掛けることのほうが重要である。
(6)皮膚病 真菌によるものとノミ・アレルギーが比較的多く,また幼若期に去勢や避妊手術を受けたネコは,ホルモン失調性の脱毛を起こすことがある。真菌症は円形の脱毛と脱毛部のかさぶたが特徴であるが,真菌の種類によっては必ずしも円形ではなく,種々である。真菌は被毛についてよく増殖し,仲間のネコ,また人へも感染するので早期に治療する必要がある。ノミ・アレルギーは背中から尾根部へかけて粟粒状のかさぶたができ,ネコは非常にかゆがり,なめたりかんだりして症状を悪化させる。ノミの駆除,寄生予防が重要である。
執筆者:一木 彦三
ネコ科Felidaeはイヌ科とともに肉食によく適応し進化した哺乳類で,野生種は,オーストラリア,ニュージーランド,ニューギニア,セレベス,フィリピンの大部分,日本本土,マダガスカル,西インド諸島,南極および北極圏や大洋中の島々以外の世界中に分布し,学者によって異なるが,現生種は35~41種に分けられる。
生息環境は変化に富み,トラのように熱帯雨林,川沿いの低地にあるヨシの茂みややぶ,温帯の岩の多い混交林,丈の高い草原,寒帯の寒冷な荒れ地にすむものから,スナネコFelis margaritaのように半砂漠地帯にすむもの,ユキヒョウPanthera unciaのように高山の岩場にすむものまである。
現生のネコ類(ネコ亜科)は元来森林生の祖先から発している。今から5000万年ほど前の暁新世中期に現れ,3500万年前の漸新世初期まで栄えたミアキス科Miacidaeのものから,約4000万年前の始新世後期に分岐し,漸新世,中新世を経て,500万年前の鮮新世前期まで栄えたニムラブス亜科Nimravinaeがネコ亜科の直接の祖先である。ニムラブスの多くは後足にも5指(ネコ亜科では4指)をもち,あごが長く,歯数がふつう36本と多く(ネコ亜科では28~30本),顔は現在のジャコウネコ類によく似ていた。そして獲物の殺し方も,頭の骨をかみ砕く原始的なものと考えられている。この方法では頭骨のがんじょうな大型の草食獣を捕食するのはほとんど不可能であり,そのためかトラやライオンのような大型種は,この類からは出現しなかった。
大型の獲物を殺すことのできないニムラブスの欠点を埋めたのが,次に現れたマカエロズス亜科Machairodontinaeである。マカエロズスは2600万年前の中新世前期に出現し,第四紀のおよそ1万年前に滅んだグループで,有名な剣歯虎(けんしこ)(サーベルタイガー)類スミロドンSmilodonなどである。この仲間では,上あごの犬歯が大きく発達して短剣状となっており,きばの長さは17~20cmもある。剣歯虎はこれを用いて皮の厚い大型草食獣を突き刺して出血させ,あるいは気管をかんで窒息させて殺したのである。この狩りの方法はおおいに成功し,300万年前ころの第三紀末から第四紀初頭にかけては,マカエロズス類の中から現生のライオンに劣らぬほどの大型種も出現した。
マカエロズス類にひと足遅れて現生のネコ亜科Felinaeは,1500万年前ころの中新世中期にニムラブス亜科より分岐した。ネコ亜科の動物の獲物の脊髄を切断して殺す狩りの方法は,初めのうちは剣歯虎の短剣状の犬歯の能率に及ばなかったとみえ,あまり繁栄しなかった。しかし,第四紀に入ると,ネコ亜科の中からも大型種が次々に出現し,マカエロズス類の剣歯虎にとって代わり始めた。大型草食獣が,進化して逃げ足が速くなったため,剣歯虎の殺し方では獲物に逃げられることが多く,逆にネコ亜科のものの狩りではそれが少なかったからのようである。ネコ類は動作が軽快なばかりか,大脳もマカエロズス亜科に比べてずっとよく発達し,それだけ知能がよいことも大きく影響したことと思われる。こうしてネコ亜科の動物は現在の繁栄を築いた。
現生の種の体の大きさは変化に富み,最小のものは南アフリカのカラハリ砂漠付近の乾燥地帯に生息するクロアシネコFelis nigripesで,体長33~50cm,尾長15~20cm,体重1.5~2.75kgにすぎないが,最大のものはアジアに分布するトラPanthera tigrisで,なかでもシベリア南東部や中国東北部に生息する亜種のシベリアトラ(チョウセントラ)P.t.altaicaは大きく,体長2.8m,尾長95cm,体重306kgに達する。体色も変異が著しく,灰色のコロコロ(パンパスキャット)Felis colocolo,灰褐色のジャングルキャットF.chaus,褐色のマライヤマネコF.planiceps,金色をおびた褐色のアフリカゴールデンキャットF.aurata,赤褐色のヤガランデF.yagouaroundiまであり,白色型のライオンP.leoや黒色型のヒョウ(クロヒョウ)P.pardusなども知られている。褐色や黒色の斑紋をもつものが多く,トラのような縞模様,ジャガーP.oncaなどのような梅花状の大きな斑紋,チーターAcinonyx jubatusなどのような黒点があり,それぞれまったく別のもののように見えるが,黒点がつながって縞模様や梅花状斑紋が形成されたものである。ネコ類の体色と斑紋は,獲物に接近する際のカムフラージュに役だつと考えられている。
体は筋肉質でしなやかである。とくに肩と首,腰と後肢の筋肉は発達する。四肢は草原生のものでは比較的長く,森林生のものでは比較的短く,指で体をささえて歩く指行性である。足の裏には肉球があり,クッションの働きをし,歩くときに音を立てない。前足に5指,後足に4指があり,指の先端にはかぎづめが発達する。チーターではかぎづめはイヌ類同様出たままであるが,その他のネコ類ではかぎづめは指の先端にある皮膚の鞘の中に引っ込めることができる。ふだんかぎづめは引っ込めているが,獲物をとらえるときや木に登るときなど必要に応じてかぎづめを特別な筋肉の働きで出す。
頭は丸く,吻(ふん)が短い。脳は知能をつかさどる大脳半球が大きく,学習能力が高いが,ネコ類の習性の大部分は考えて行動するのではなく,自動的,生来的な本能により,状況に応じて迅速かつ適切に反応する。耳介は大きく,イエネコのように先端がとがったものや,ベンガルヤマネコF.bengalensisのように丸いもの,あるいはオオヤマネコF.(=Lynx)linxのように先端に長い毛房をもつものなどがある。
聴覚は鋭く,10万Hzくらいまでの高音を聞くことができ,集音効果の高い大きな耳介をいろいろな方向へ動かして,音の発生源を知ることができる。視覚も鋭い。目は獲物をとらえるつごう上,距離を目測しやすいよう顔の前面についている。昼夜とも物を見ることができるが,網膜に錐状体が少なく色をほとんど区別できない。網膜の奥の脈絡膜の一部には光を反射する脈絡壁板があり,微弱な光でも入射時と反射時の2回,視細胞でとらえることができ,暗やみで物を見ることができる。目に入る光量を調節する瞳孔(どうこう)は,多くのものでは縦に縮まる。縦の瞳孔は丸い瞳孔よりも光の調節能力が高い。嗅覚(きゆうかく)は耳,目に比べると劣るが,なわばりのマーキングや交尾期における役割は大きい。口の周辺などにあるひげは毛根が神経に囲まれていて,触覚器となっており,夜行動する際に重要な働きをもつ。
口は大きく開くことができる。あごは短くかむ力が強い。切歯は上下顎(じようかがく)とも3対で小さく,食事などにはあまり重要でなく,毛づくろい時によく使用される。上下に各1対ある犬歯は獲物に突き刺して,脊髄や血管を破り,それを殺す武器として重要で,ウンピョウNeofelis nebulosaでは長く,基部の直径のおよそ3倍の長さがある。頰歯(きようし)は草食獣のように臼型でなく,上下の各1対が裂肉歯に特殊化している。前臼歯(ぜんきゆうし)は上あごでは第1あるいは第2前臼歯が消失し,各2~3対(オオヤマネコやイリオモテヤマネコMayailurus iriomotensisでは2対と少ない),下あごでは第1,第2前臼歯が消失して各2対あり,臼歯は上下に各1対しかないが,上あごの第4前臼歯と下あごの第1臼歯が大きく発達し,はさみの刃のようにかみ合って肉を切るのに適した裂肉歯となっている。ネコ類は肉片を丸飲みするため,食物をかみつぶすのに適した歯をもたない。舌には多くの小突起があり,骨についた肉をそぎ取ったり,毛づくろいするのに適する。
ネコ類の食物はほとんどが哺乳類,あるいは鳥類で,ときに魚類,両生類,爬虫類,昆虫類が含まれる。しばしばイネ科植物を食べるが,栄養分としてではなく,整腸剤としての働きがあるとみられている。獲物を狩る方法は忍び寄り,あるいは身を伏せての待伏せが主で,ごく短距離の追跡を伴う。ネパールから東南アジアに分布するマーブルキャットFelis marmorataやウンピョウなどは樹上でも狩りをする。サーバルF.servalやカラカルF.caracalなどは空中に高く跳び上がり,飛んで逃げる鳥をもとらえる。ジャガーなどは獲物を追ってしばしば水に入る。チーターはネコ類としては異例の追跡型の狩りを行う。走行速度は陸生動物中最高で,時速113kmに達するといわれるが,追跡可能距離は400~500m以内である。多くのものは夜行性で,夜間狩りを行うが,チーターのように早朝と夕刻といった日中に狩りを行うものもある。獲物に跳びかかると頸椎の間に犬歯を突き刺し,脊髄を切断したり,頸動脈をかみ切って殺すことが多いが,トラやライオンなどは強力な前脚の一撃で獲物の首を折ることもできる。殺した獲物は近くの安全な茂みに運び込み,そこで食べるが,通常は毛や羽毛は食べない。食べ残すと,ヒョウはしばしば樹上に運び上げ保存するが,多くのものはピューマF.concolorのように木の葉や枝をかけておく。そして,近くの樹上,樹洞,岩穴,岩の割れ目,他の動物が捨てた土穴,あるいは茂みなどの休息場から,毎日食べに通ってくる。
ネコ類はふつう単独で生活する。季節によっては雄と雌のつがいで行動するが,ライオンのように大きなグループでいるものは,ネコ類としてはむしろ異例である。多くの種において雌は,発情周期が年に数回起こる多発情周期型であり,1年に1回出産する。年に2回出産できる種もあるが,大型種ではときに2~3年に1回しか繁殖しないものもある。妊娠期間は変化に富み,55~119日まである。一般に小型の種ほど短く,大型のものでは長い。1回の出産で生まれる子の数(1腹子数)は多くは1~6頭で,誕生直後の子はふつう目は閉じており,弱々しい。しかし,体毛は生えており,しばしば斑紋をもつ。たとえば,成獣ではほとんど無地となるライオンでも,子では体全体に斑紋があり,ふつう生後半年で消失する。子は自分で狩りができるようになるまで母親とともに生活する。母親は子の前で獲物を殺したりして,獲物のとり方を子に教える。寿命は多くの種で15年くらいであり,個体によっては30年を超すこともある。
執筆者:今泉 忠明
猫は古代ギリシアでは知られず,エジプトから南イタリアを経てヨーロッパに入ったらしい。古代エジプトでは聖獣として敬われ,みだりに殺す者は死刑になり,火事の際には真っ先に救わなければならなかったという。前525年のペルシアとエジプトの戦ではペルシア軍が最前列に猫を配したため,矢を放つことのできぬエジプト軍が大敗を喫したと伝えられる。ローマ人はネズミの害を防ぐためテンやイタチや蛇を飼っていたが,のちに猫がその地位を奪った。
一般に猫には,夜光る目,静電気を発する毛,音を立てない独特の歩き方などから魔的なものが備わっているとされ,次のような多くの俗信が残っている。黒猫が朝道を横切るのは不幸のしるし。黒猫の夢も凶。こういうときには三度つばを吐いたり石を投げてそらす。中世には悪疫がはやると黒猫をいけにえにするのがふつうだった。猫が身づくろいをすると来客があり,顔を洗うと女の客,背中をこすると男の客だという。猫を殺すと不幸が起こる。猫が年をふると悪魔や魔女になり人に害を加えるから家から出さなければならない。女が猫をかわいがると幸せな結婚生活ができるが,男の場合は結婚できない。天気の予報とも関係が深く,身体をきれいにしたりしりをなめたり草を食うと雨になり,水を飲むと雪。くしゃみをしても雪になるという。婚礼の日によい天気を望む者は猫によい食物をやるとよい。猫のひげを切るとネズミをとらなくなる。妊婦が足で猫をけるとお産が重くなるという。
猫のもつ多様なイメージは無数のことわざ,成句に表されているほか,猫が登場する童話,童謡,文学作品,映画,さらには猫を素材とする工芸品も多い。
執筆者:谷口 幸男
中国では,文献上,〈貍(狸)奴〉と書かれることもあるが,通称の猫はその鳴声からきた命名である。家にいついてよく人になれるが,老いれば陰険で不気味な存在となるため,中国でも黒猫を殺せばたたるとか,猫が人語を発し,また歌をうたったという類の怪異談もある。さらに猫は魔性のもので,キツネと同じく月光を吸って妖精となり,雄は人間の男に,雌は女に化けるともいう。はては猫は妓女が死んで生まれ代わったものだとの俗説もあり,日本で芸者を隠語で猫と呼ぶのに似ている。猫の皮を張った三味線を弾くからという俗解以前の伝承があったかもしれない。猫に魔性を認めた結果,瀕死(ひんし)の病人または死者に猫を近づけるなという禁忌も日本と同様で,近づけると妖魔が死者について起立し,種々のたたりをするともいわれる。そのほか,死んだ猫を竹林に埋めると竹がよく繁茂するとの俗信もあり,これら猫に関する資料は,清の黄漢の《貓苑》という猫百科書に記載されている。
執筆者:沢田 瑞穂
日本には奈良時代ころに渡来したといわれ,貴重な経典類をネズミの害から防ぐために,それらとともに輸入されたという説もある。鎌倉時代に,金沢文庫では多量の典籍をネズミから守るために宋からよい猫を輸入し,これらは金沢猫と呼ばれて近世までその名が残ったという。愛玩用としては,平安時代には《枕草子》に宮中の飼猫のことがみえるように,上流社会で飼われていたが,やがて広く一般に飼われるようになった。《源氏物語》若菜下に,女三宮に恋する柏木が,彼女の猫を手に入れて,その〈形見〉として,夜は側に寝,昼はなでたりさすったり,ふところに入れるなどしてかわいがるようすが書かれている。なお,同書には,猫が綱につながれているさまがみられる。
これら輸入された飼猫とは違い,ヤマネコといわれるものは種として別種であり,人にはなれない。そのほか奥羽山地の山言葉ではテンのことを実名で呼ばず,ヤマネコといいかえている。これをふつうの人が耳にすると実際には存在しないヤマネコがその地にいると誤解する可能性がある。山仕事をする者は一般に山中で猫ということばを用いることをきらい,津軽でマガリ,中国山地でも兵庫県でトリ,岡山県でチョウタ,広島県でジンタなどといいかえる。沖縄県先島地方では猫をマヤといい石垣島の神事ではマヤの神,トモマヤの神という二つの神が面を着けて現れ,海の彼方の世界からやってくるものと考えられていた。マヤは宮古島では一般に野猫をいい,道であうことを恐れ,目を見合わせることを避けた。
このように猫が恐れられたのは,他の動物と異なって瞳が時と所によって太く細く変じ,また人を避け秘密があるようなそぶりを見せるからであろう。真夜中に人の見ていない山中で踊りをおどるとか,どこかに猫が人の姿をしてくらしている村があって,道に迷った者が泊めてもらって危うく猫に姿を変えられるところを逃れてきたという話もあった。猫股(ねこまた)と呼んで,尾が裂けているとか,化けたり人語をかたるなどといわれたものがあり,《明月記》や《徒然草》にも人を害するものとしてみえる。また,いくつかの〈猫騒動〉も伝えられている(猫騒動物)。
招き猫として,猫の像を商店の店先に置くのは江戸時代からのことで,猫が前足をあげて顔をこすると客がくるという中国の故事からきているというが,関東では東京世田谷の豪徳寺の飼猫の報恩談として伝えられる。また雄の三毛猫は天候を予知するといわれ,和船時代には高価に買い求められたという。
執筆者:千葉 徳爾 また,猫は人間と親しい身近な動物であるので,その生態と関連したことわざやことばが多い。たとえば,悪事を隠したり,他人の物を横取りして知らん顔をすることを〈ねこばば(猫糞)〉というが,これは猫が自分の糞を後足で土をかけて埋めることに由来する。《浮世風呂》に〈おそれるほどなら湯も浴(あび)せず,小(ちつさ)くなつて屈(か)ゞ(ん)で居べいが,猫糞(ねこば)ゞで,しやアしやアまぢまぢだ〉とある。また〈猫舌(ねこじた)〉は,猫が熱い食物をきらうところから,熱いものを食べたり飲んだりすることができないことをいい,〈猫舌も有ると宿取り念を入れ〉という句もある。なお,マタタビは猫の好物として有名で,《貝おほひ》に〈さかる猫ハ気の毒たんとまたゝびや〉という句がある。肉食の猫類が植物のマタタビに強い感受性を示すのは,それが性的な何かと関係があると考えられている。マタタビに酔った猫やライオンの行動は,発情した雌の行動と一致するといわれ,マタタビにはある時期の猫の発するにおいと同一あるいはきわめてよく似た物質が含まれているといわれる。
執筆者:村下 重夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には哺乳(ほにゅう)綱食肉目ネコ科に属する動物の総称で、狭義には家畜化されたイエネコFelis catusをさす。普通、欧米では前者の、日本では後者の意味で用いられることが多い。
ネコ科の動物は肉食性で、食肉目のなかで、獲物をとらえるのにもっとも高度に特殊化している。南・北アメリカ、ユーラシア、アフリカに分布し、約35種が知られている。分類学的にネコ科は大きく3群に分けられる。(1)イリオモテヤマネコ、ヨーロッパヤマネコなど一般に小形の種が多く含まれるネコ族、(2)ライオン、トラ、ヒョウといった自分より大形の獲物を倒すことができる大形ネコ類のヒョウ族、(3)チーター1種が属するチーター族、である。たいていのネコ類はつめを鞘(さや)の中に引っ込めることができ、歩行時にはつめを出さないが、チーターはつめを引っ込めることができない。
ネコ科の動物は以上のような特徴をもつ。以下、本項においては、日本で一般にネコとよばれるイエネコについて論述する。
[成島悦雄]
イエネコはヨーロッパヤマネコF. silvestrisの亜種リビアヤマネコF. s. lybicaを家畜化したものと考えられている。リビアヤマネコとイエネコを交雑しても、繁殖力をもった子が生まれる。ネコを最初に家畜化したのは古代エジプト人である。紀元前3000年ごろのエジプト初期王朝の墓には、装飾品としてネコの姿が壁画などに描かれているが、これらのネコはおそらく野生のリビアヤマネコを飼いならしたものであろう。家畜化されたネコの絵で最古のものは、前1500~前1300年代に古代エジプト王朝の墓の記念碑に描かれたものである。古代エジプト人はネコを神聖な動物として崇拝し、国外持ち出しを禁じていたが、フェニキアの商人により小アジアへひそかに運ばれ、続いて紀元後1世紀ごろヨーロッパに伝わった。
日本では縄文時代の地層からネコの骨が出土しているが、野生のネコと考えられている。日本にイエネコが渡来したのは、奈良時代の初期に中国から仏教の教典を運ぶときに、ネズミの害を防ぐため船にネコを乗せたのが最初であるといわれている。文書に残されたものでは平安初期の宇多(うだ)天皇の日記『寛平御記(かんぴょうぎょき)』がもっとも古く、884年(元慶8)中国から光孝(こうこう)天皇にネコが献上されたことが記されている。
[成島悦雄]
体長約75センチメートル、尾はその3分の1。肩高30センチメートル、体重3~5キログラム。他のネコ科の動物同様、飛びかかって獲物をとらえるに適したしなやかな体と、鋭い歯と鉤(かぎ)づめが特徴となる。後肢は前肢に比べ非常に長く、ばねの役目をして跳躍を容易にしている。指は前肢に5本、後肢に4本あるが、前肢の第1指は高く位置し着地しない。人間はかかとをつけて歩く蹠行(しょこう)性であるが、ネコは指を地面につけて歩く指行性である。運動時には左の前肢と右の後肢をいっしょに踏み出す。歩行時はつめが鞘の中に引っ込められているが、獲物をとらえるときは、つめを鞘から引き出すとともに、指の間隔も広げられて幅が広くなり強力な武器に変化する。着地する指の裏側には毛の生えていない柔らかな肉球があり、クッションの働きをする。この肉球のおかげで音もたてずに獲物に忍び寄る。木に登るのは巧みであるが、木から降りるのは下手で、木の高いところに登ったまま降りられなくなったネコをときにみかける。歯は獲物を突き刺したり、肉をかみ切るのに適応している。子は歯の生えていない状態で生まれるが、生後4~5週間で乳歯が上顎(じょうがく)に14本、下顎に12本、合計26本生えそろい、7か月齢になると30本の永久歯で置き換わる。歯式は以下の通り。
目はよく発達し、丸い顔の前面についているため立体視が可能となっている。これは獲物までの距離を正確に測るのに役だつ。目の色はブルー(青)、グリーン(緑)、ゴールド(金色)、ヘーゼル(淡褐色)などさまざまの色合いがみられるが、品種により色の基準が決められている。被毛が白く目の青い個体は、聴力障害を伴う場合が多い。網膜の背部にタペータムtapetumとよばれる光の反射板状の構造を備え、夜間の弱い光を増幅する働きをもつ。夜、目が光ってみえるのはこの反射板のためである。瞳孔(どうこう)は大きく形を変え、暗い場所では円形に開くが、明るい場所では縦のスリット状に狭まる。生まれたばかりの子ネコは目が閉じているが、生後8~12日で開く。しかし、物がよく見えるようになるにはさらに2~3日を要する。すばらしい視力をもつが、色の識別は困難である。口の周囲、目の上などに生えている長いひげ(触毛)は、感覚器官として重要で、毛根部に知覚神経が密に分布している。自分の体がやっと通り抜けられるような狭い通路も、ひげをアンテナがわりにして障害物を探知する。肉食性のため消化管は短く、小腸は体長の約3倍ほどの長さである。消化器系で特徴的な器官は舌である。舌の表面と、辺縁は舌乳頭とよばれる棘(とげ)状の突起で覆われ、やすりのようにざらざらしている。舌乳頭はその形により、糸状、茸(きのこ)状、葉状、有郭、円錐(えんすい)(糸状の変形)の5種に分けられるが、とくに糸状乳頭は先が鉤状に鋭くとがり、のどの奥に向いて並んでいる。これら舌乳頭の役目は、骨についている肉の細片をなめ取ったり、毛づくろいの際に櫛(くし)の働きをすることである。
染色体は19対38本で、雄の性染色体はXY、雌はXXである。三毛ネコは黒・茶・白の3色まだらの被毛をもつネコであるが、そのほとんどが雌に限られるのは、茶の遺伝子がX染色体上にあり伴性遺伝をするからである。雄が生まれるのは、まれにX染色体とY染色体が交差し、茶の遺伝子がY染色体に移るためと考えられている。
[成島悦雄]
ネコは夜行性の動物である。また、イヌの仲間は普通、群れをつくって獲物を追いかけるが、イエネコを含むネコ類は、単独で獲物に忍び寄るか、待ち伏せして獲物をとらえる。全力疾走で追いかけるので追跡できる距離が短いため、不意に襲いかかる方法をとる。イエネコの食性は本来肉食性のため、イヌに比べはるかにタンパク質の要求度が高い。
生後7~12か月で性成熟する。繁殖期は一定しないが、1~3月と5~6月が多い。雌の発情は3~10日続き、この間に交尾がなければ1~3週後にふたたび発情が現れる。交尾が刺激となり、交尾後24~30時間で排卵がおこる。妊娠期間は平均63~65日であるが、56~67日までの幅がある。普通4~6頭の子が生まれ、子の数が多いほど妊娠期間は短くなる傾向にある。寿命は15年前後であるが、イギリスのネコに34年という長寿記録がある。
ネコは本来単独生活者で、繁殖期の雌雄と、子別れするまでの親子関係以外は、互いに出会うことを避けている。ネコの行動圏は大きく三つに分類できる。一つはほかのネコの侵入を許さない絶対の自由圏で、自分の飼われている家とその庭が範囲である。絶対の自由圏から半径数百メートルは狩猟圏で、狩り場、見張り場、休憩所が含まれ、そのおのおのはネコの通り道で網の目のように結ばれている。ネコどうしの狩猟圏は互いに重なり合っているが、行動する時間をずらして時間的すみ分けを行っており、ネコどうしが鉢合わせすることはない。狩猟圏の中で普段は顔をあわせないようにしているネコも、夜に集会を開く。集会場は狩猟圏の中にある。ときに小競り合いのみられることもあるが、ほとんどの場合、和やかな雰囲気で集会は進行し、狩猟圏を共有しあうネコどうしの親睦(しんぼく)を図っているらしい。狩猟圏の外側には普通は立ち入らないが、繁殖期になると雄ネコはパートナーを求めて足を踏み入れることもある。
狩猟圏を共有するネコが顔をあわせないですむのは、マーキングにより相手に自分の存在を教えているからである。マーキングとは印をつけることで、ネコはいくつかの方法でマーキングを行う。尿によるマーキングは、(1)尿をかけようとする草、木、電柱などに臀(しり)を向け、(2)方向を定め、(3)垂直に立てた尾を震わせ、(4)勢いよく尿を後方に噴射する、といった順序で行われる。あとからきたネコは残された尿のにおいをかいで、先に通ったネコと鉢合わせしないように行動する。尿以外のにおいでは肛門腺(こうもんせん)など体に分布する臭腺からの分泌物も物にこすりつけて利用する。また、つめ研ぎ行動も単につめの手入れのためだけでなく、物につけられたつめ跡が目印となる。
昔から「ネコにマタタビ」といわれるようにネコはマタタビを異常に好み、マタタビにより一種の恍惚(こうこつ)状態に陥る。マタタビに含まれるマタタビラクトン・アクチミジンという有機物が原因とされている。マタタビのほかにリンドウ科のミツガシワも同様の効果をもち、西洋ではイヌハッカcat nipがネコに恍惚状態をおこすことが知られている。この効果は個体差が大きいが、普通は雌より雄に強く現れ、子ネコはまったく反応しない。
[成島悦雄]
被毛の長さにより長毛種と短毛種に2大別される。毛質や毛色は品種によりさまざまのものがみられる。イヌほど体形の差異がなく、品種も少ない。
[成島悦雄]
(1)ペルシアネコ 単にペルシアともよばれる。長毛種の代表的な品種。アフガニスタン在来のペルシアネコとトルコ在来のアンゴラネコをもとに、イギリスで作出された。毛色により多くの種類があるが、そのいくつかを以下に列挙する。ブルー(被毛は青1色)、ホワイト(純白)、ブラック(黒)、クリーム(淡黄色)、レッド(赤)、チンチラ(銀白色で先端のみわずかに黒)、シェーデッドシルバー(チンチラに似るが毛の先端の黒が多い)、タビー(縞(しま)模様をもつ)、トーティシェル(黒、赤、淡黄色のべっこう色)、キャリコ(トーティシェルの色に白が加わる)、バイカラー(黒と白、青と白など)。
(2)ヒマラヤン シャムネコとペルシアネコを交配して作出された。体形と被毛の長さはペルシアネコから、被毛の色はシャムネコから受け継いだ。ポイント(被毛先端の色の濃い部分)の色によってシールポイント(アザラシのような茶褐色)、ブルーポイント、チョコレートポイント、ライラックポイント(薄紫)、フレームポイント(鮮やかな橙(だいだい)色)などの種類がある。
(3)バーマン ミャンマー(ビルマ)の寺院で飼われていたネコをもとに、フランスで作出された。ヒマラヤンに似るが、四肢の先端が白く、白い手袋をはめているようにみえる。
(4)バリネーズ 毛の長いシャムネコ。突然変異を利用してアメリカで作出された。
[成島悦雄]
(1)シャムネコ 代表的な短毛種。タイ王室で飼われていたネコが1800年代にイギリスに渡り、現在のシャムネコのもとになったといわれる。ほっそりした体形で、気品にあふれ美しい。顔は逆三角形のV字形で耳は大きく根元は幅広い。目は青く、つり上がっている。シャムネコのいちばんの特徴は、顔、耳、尾、足先などのポイントで、シールポイント、チョコレートポイント、ライラックポイント、ブルーポイント、レッドポイント、タビーポイントなどがある。
(2)アビシニアン アビシニア高原(エチオピア高原)原産。リビアヤマネコにもっとも近いといわれ、古代エジプトの壁画に描かれているネコに姿が似る。毛の1本ずつが2、3色に分かれ、毛の先端にいくほど色が濃くなるティッキングといわれる被毛をもつ。
(3)ビルマネコ 別名バーミーズ。ビルマ在来のネコにシャムネコを交配してアメリカで作出された。筋肉質で骨格はがっしりしている。毛色はセーブル・ブラウンとよばれる濃い褐色で、下腹部は色が薄くなっている。被毛は体に密着し、絹のような光沢をもつ。
(4)ロシアンブルー スカンジナビア原産。全身が明るい青色の毛で覆われ、毛先は銀色。目は濃い緑色。上毛とともに下毛も長く、密生し、ダブルコート(二重毛)のようにみえる。寒さに強く、雪の上でも遊び回る。
(5)レックス 突然変異で生まれた縮れ毛のネコを固定した品種。上毛を欠き、下毛は短く柔らかで、縮れて巻いている。ローマン・ノーズとよばれる高く盛り上がった鼻すじも特徴の一つ。体は長く、ほっそりしている。
(6)マンクス イギリスのマン島原産。生まれつき尾を欠くのが特徴で、本来尾のある部分はへこんでいるか、毛の房となっている。前肢に比べ後肢が著しく長いため腰高で、ウサギが跳ねるような歩き方をする。
(7)ジャパニーズボブテール ボブテールとは切り尾のことで、尾の短いことに由来する。日本の三毛ネコをもとにアメリカで改良固定された。途中で曲がっている短い尾は、扇形に生えた毛で覆われている。
(8)日本ネコ 起源は、前述のように仏教の教典とともに中国から渡ってきた唐猫(からねこ)であるといわれている。額は広く、顔が丸い。尾の長さは一定しない。短毛で毛色は単色、斑(はん)(三毛など)、縞といろいろみられる。鳴き声も美しい。なじみ深い日本ネコもまだ品種としては固定されていない。現在、基準をつくり品種として確立する試みがなされている。
[成島悦雄]
ネコを飼い始めるには、離乳の済んだ2~3か月齢がよい。これ以前では哺乳の必要があるとともに、まだ雌親からネコとして必要な基本的生活方法を学びきっていないため、成長しても正常な行動をとれなくなるおそれがある。一方、月齢数のいったネコでは飼い主になつきにくくなる。子ネコは健康な個体を選ぶ。健康な子ネコは毛並みがきれいで毛に光沢があり、目やに、涙、耳垢(あか)、鼻水、よだれ、下痢症状といった体の汚れがない。
ネコは本来、肉食性のため肉や魚が餌(えさ)として最適であるが、内容に変化をもたせ栄養のバランスを考える。餌に味つけは必要なく、塩気の多いものは水出しして与える。魚や鶏肉は骨がのどや消化管に刺さる危険があるので、骨を取り除いて与える。給餌(きゅうじ)回数は1日1、2回、時間と場所は一定にする。
ネコと人間が上手につきあっていくには、ネコにマナーを教えなくてはならない。とくにトイレとつめ研ぎのしつけが重要である。トイレは、中で向きを変えられるぐらいの大きさの箱に、市販のトイレ用砂や新聞紙の細片を入れて用意する。ネコが糞(ふん)や尿をするそぶりをみせたら、すぐにトイレに連れて行き用を足させる。何回か繰り返すうちにトイレを覚えるようになる。トイレの場所は人目のつきにくい部屋の隅がよい。柱や家具をつめで傷められるのを防ぐには、つめ研ぎ板を用意し、つめを研ぐしぐさをみせたらただちにつめ研ぎ板の前に連れて行き、この板でつめを研ぐことを覚えさせる。しつけのこつは、飼い主の希望どおりの行動をしたときに大いに褒め、そそうをしたときはその場でしかることである。
ネコは普通、交尾後63~65日で子を産む。妊娠中は食欲が増すため給餌量を増やすとともに、栄養的にカルシウムやビタミンDの多く含まれる食物、たとえば牛乳やチーズを与えるようにする。妊娠末期になると落ち着きをなくし、家具と壁のすきまや押し入れなど人目のつきにくい場所に入りたがる。このようなようすをみせたら産室を用意する。産室は、雌親がゆったりと横になれる広さの木箱や段ボール箱でよく、箱の蓋(ふた)はあったほうが雌親が落ち着く。箱の底には新聞紙を敷く。普通4~6頭の子ネコが生まれる。子が生まれる間隔は30~40分で、軽いお産なら2~3時間で終了する。子ネコが生まれたら、目が開いて歩き始めるまで雌親に育児を任せ、産室を過度にのぞくのは避ける。子を欲しくないときは不妊手術を行う。雄の場合は精巣を、雌の場合は卵巣と子宮を摘出する。生後1年ぐらいが手術の適期である。不妊手術後は雌雄とも体重が増加し性質もおとなしくなる。
[成島悦雄]
体調がおかしくなると元気や食欲もなくなり、うずくまってじっとしている。下痢、嘔吐(おうと)、咳(せき)、鼻汁、涙といった症状が病気により現れる。毎日の観察が病気の早期発見につながる。健康時の体温は38~39℃前後である。体温の測定には、デジタル式の体温計か、ガラス製ならじょうぶな獣医師用体温計を用いる。体温計の表面にワセリンを塗って滑らかにし、優しく肛門に挿入して測る。飼いネコの通常体温を知っておくとよい。
伝染病のなかではネコ伝染性腸炎が幼若のネコにとって恐ろしい病気で、死亡率も高い。主症状は嘔吐で、ときに下痢も伴う。発病4日目には血液中の白血球がほとんど消失してしまうことから汎(はん)白血球減少症ともよばれる。子ネコには予防注射が勧められる。
ネコインフルエンザは年齢を問わず多くのネコに感染するが、2~3週間の経過で治癒し、死亡率は低い。涙、鼻汁、くしゃみ、よだれが主症状である。感染力が強いため、かかったネコはほかのネコから隔離し、湯たんぽなどで保温する。
寄生虫では回虫、鉤虫(こうちゅう)、条虫、コクシジウムがよくみられる。食欲にむらがある、食べても太らない、変なものを食べる、下痢、便秘、消化不良といった症状が現れる。定期的な検便と、飼育環境を清潔に乾燥して保つことが予防となる。
ネコは清潔好きで、被毛の手入れに余念がないが、このとき毛もいっしょに飲み込み、胃の中に毛の塊をつくってしまうことがある。普通、自分から吐き出してしまうが、ときに吐き出せなくなるほど毛の塊が大きくなると毛球症とよばれる。重症の場合は胃を切開して毛球を取り出す。とくに長毛種がかかりやすい。流動パラフィンを定期的に投与し、被毛のブラッシングを丹念に行って予防する。
老齢のネコには腫瘍(しゅよう)も多くみられる。とくに雌では乳腺腫瘍がまれではない。
[成島悦雄]
ネコは、世界各地でさまざまな宗教的、神秘的観念と結び付けられている。もっとも早く家畜化していた古代エジプトにおいては神聖視もされ、バステトという名のネコの頭をした女神が広く崇拝されていた。またエジプトの遺跡からは何千というネコのミイラが、ときにはその餌(えさ)となるネズミのミイラとともに発掘されている。ペルーのインディオの社会でも、ネコは、山の神の使いのうちでもいちばん重要な精霊がとる姿だと信じられている。ヨーロッパでは、ネコは妖術(ようじゅつ)信仰と結び付いていたために、これに絡んだネコ殺しの風習が各地でみられたが、とりわけ黒ネコには魔性の力が宿るとされ、魔女が好んで姿を変える使い魔であるとも信じられてきた。また強く性的な意味合いで女性と連想づけられることも多く、ネコを表す幼児語プッシーpussyは俗語で女性の陰部をさしている。
アフリカの南スーダンに住むアザンデの人々の間では、アダンダラとよばれる化け猫が非常に恐れられ、森でその姿を一目でも見た者は死ぬとされている。アダンダラは、ネコと性関係をもった女性がひそかに産み落とす動物であると考えられており、女性の異常な性行動一般に結び付けられている。そして男たちがひそかに恐れていることの一つである妻たちの同性愛もアダンダラとよばれている。タンザニアのカグルの人々はネコをイヌと並ぶ愛玩(あいがん)動物の一つとして飼っているが、一方でネコの愛液が人を殺害する強力な邪術の材料になると信じて、警戒している。
ネコを特殊な方法で埋葬しなければならないとする所もあり、たとえば沖縄のある地域では、家で死んだネコは家人に災いをもたらすことのないように、木の枝からちょうど首つりをしたようなかっこうで葬り、特別な呪文(じゅもん)を唱えなければならなかった。ケニアのドゥルマ社会では、ネコはあらゆる獣のうちでも、人間と同じようにきちんと埋葬せねばならない唯一の動物とされる。
[濱本 満]
『枕草子(まくらのそうし)』に、「上に候ふ御猫は冠(こうぶり)得て命婦(みょうぶ)のおとどとていみじうをかしければ……」と愛猫が五位の位を頂いたことがみえているが、イヌとともに古代から人家に飼われていたネコには、イヌと違っていろいろな怪談が語られている。とくに三毛ネコにその話が多く、ネコは各地で、一貫目近くになると化けるといわれている。また、年を経たネコは尾が二つに割れて「猫又(ねこまた)」になるといわれ、『徒然草(つれづれぐさ)』に「奥山に猫又といふものありて……」とあり、藤原定家(ていか)の日記『明月記(めいげつき)』にも、1233年(天福1)南都に猫又が現れて一夜に7、8人の死者が出たと記されている。このほか、近世における鍋島(なべしま)・有馬(ありま)両家の猫騒動が有名である。しかし逆に舟乗りなどは、三毛の雄猫を珍重して航海の守り神としている。
ネコは昔話や伝説にも多く登場するが、「猫と狩人(かりゅうど)」では、狩人が山に出かけるので鉄砲玉を数えていると、それを見ていた飼い猫が山で怪物となって狩人を襲い、狩人は用意した隠し玉でネコを射ち殺し、助かる。またネコは3年飼っても3日の恩しか知らないというが、「猫檀家(ねこだんか)」では、貧乏寺の飼い猫がその呪力(じゅりょく)によって檀家を増やし、恩返しをする。ネコが十二支に入っていないいわれを語る話も各地にあるが、これには2通りあり、その一つは涅槃(ねはん)(釈迦(しゃか)入滅の日といわれる2月15日)のときにネコが駆けつけなかったからとするものと、神様が正月にやってきた順に十二支を決めるといわれた際、ネズミがネコに日を遅らせて告げたために除外されてしまったとするもので、それ以来怒ったネコはネズミをとるという。
三重県松阪市では、12月8日を「猫随神(ねこずいしん)」といってこの日ネコに御馳走(ごちそう)をするが、岩手県気仙(けせん)郡では「猫の年取り」といって、2月1日の年重ねの祝いに銭と餅(もち)を十字路に捨てて厄払いをする。また葬式の際にネコを遠ざける風習は全国的にみられ、死体の上に刃物を置いてネコが近づくのを防ぐのは、葬送のときネコが火車(かしゃ)となって風雨をおこし、棺を空中に巻き上げるからという。
[大藤時彦]
『大木卓著『猫の民俗学』(1979・田畑書店)』▽『キャサリン・M・ブリッグズ著、アン・ヘリング訳『猫のフォークロア――民俗・伝説・伝承文学の猫』(1983・誠文堂新光社)』▽『木村喜久弥著『ねこ――その歴史・習性・人間との関係』(1986・法政大学出版局)』▽『平岩米吉著『猫の歴史と奇話』新装版(1992・築地書館)』▽『バーバラ・ホーランド著、川合あさ子訳『猫のことなら――生態と行動 歴史と伝承』(1992・心交社)』▽『ブルース・フォーグル著、山崎恵子訳『キャッツ・マインド――猫の心と体の神秘を探る』(1996・八坂書房)』▽『ジェラルド・ハウスマン他著、池田雅之・桃井緑美子訳『猫たちの神話と伝説』(2000・青土社)』▽『岩崎るりは著、小山秀一監修『猫のなるほど不思議学――知られざる生態の謎に迫る』(2006・講談社)』▽『マイケル・W・フォックス著、奥野卓司・新妻昭夫他訳『ネコのこころがわかる本――動物行動学の視点から』(朝日文庫)』
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…現在ではほとんど例外なくバミューダメーンスルである。(12)キャットcat この名称はアメリカ東部でよく使われてきた1本マストにガフセール1枚だけを展ずる小型ヨットを指すが,転じて現在ではジブをもたない帆装をも意味するようになっている。2本マストにそれぞれ1枚ずつのバミューダセールを展じ,ジブの類をもたないものをキャットケッチといったりする。…
…片前足をあげて座っている姿態の猫の像で,縁起物の一種。そのかっこうが人を招く姿に似ており,また芸者の異名をネコと呼ぶのにちなんで,花街や飲食店などで愛用され,正月に買い求めて店の入口に置く風がある。また猫は人だけでなく福をもたらす霊力をもっていると信じられた。…
…クワを栽培し,そのクワでカイコ(蚕)を飼育し,繭を生産すること。人類は農業が始まる以前,山野に自然にできたものを採って食糧や衣類などの原料にしていた。その後,生活している場所の近くで植物を栽培したり,動物を飼育するようになった。養蚕も同じような過程を経たものと考えられている。養蚕が始まる以前の長い期間,人類は野生のカイコ(野蚕)の繭を利用していたものと思われる。人類は,太古時代,食用のために果実やクワの実を採ろうとしたとき,木に野蚕の繭が営まれているのを発見し,繭糸が柔軟,強靱で生活上に役だつことを見いだして,しだいに重要な生活資源の一つとしていったのであろう。…
※「ねこ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」