改訂新版 世界大百科事典 「ヒリアード」の意味・わかりやすい解説
ヒリアード
Nicholas Hilliard
生没年:1547-1619
イギリス美術史上最初の大画家。金工家の子としてエクセターに生まれ,その技術を習得した。1570年ごろにエリザベス1世の宮廷画家兼金工家に任ぜられ,77-78年ごろフランスに滞在したのを除き終生イギリス宮廷周辺の仕事に携わる。細密画(ミニアチュール)の技法に優れ,手に取って愛玩できるような小型の肖像画を得意とし,エリザベス1世をはじめ宮廷人の肖像を描く。1600年ごろ著した《描写芸術》という小冊子には,彼自身とエリザベス1世の一致した見解として,絵画においては陰影のない明快な描線を用いるべきである,なぜならそれはあいまいさを残さず対象を表現するから,という主張を記している。作品もこの主張に即して,明瞭な線描に鮮やかな彩色を施した平面的,装飾的なもので,同時代のイタリアやドイツ,ネーデルラントなどの美術先進国の絵画に比べて驚くほど古風な雰囲気を漂わせている。反面こうした彼の作品は,シェークスピア文学の鋭い人間観察や複雑な思想とは異なる,エリザベス朝の優雅な騎士道的一面を示すものとして貴重である。
執筆者:鈴木 杜幾子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報