イギリスの女流児童文学作家。ケンブリッジシャー県グレート・シェルフォードに生まれる。ケンブリッジ大学ガートン・カレッジ卒業後、BBC学校放送部門、オックスフォード大学出版局勤務を経て作家生活に入る。第一作『ハヤ号セイ川をいく』(1955)は、2人の少年が宝探しをする冒険物語で、1950年代のリアリズムの収穫と目されたが、時間が人間に及ぼす影響を追求した『トムは真夜中の庭で』(1958)は、「時」のファンタジーの優れた伝統をもつイギリス児童文学のなかでも傑作と評された。さらに犬を渇望する少年の心の痛みを鮮やかに描き出した『まぼろしの小さい犬』(1962)、行方不明の父親を探す少女の物語『サティン入江のなぞ』(1983)などによって、児童文学におけるリアリズムを深化させた。また、『まよなかのパーティー』(1972)、『幽霊を見た10の話』(1977)、『こわがってるのはだれ?』(1986)などの短編においても、卓越した技術で非常に深く子供と大人の心の内側を描いており、優れた作品となっている。ほかには、幼年童話に『ペットねずみ大さわぎ』(1978)、絵本に『おばあさん空をとぶ』(1961)、『りす女房』(1971)などがある。寡作ではあるが、第二次世界大戦後イギリス児童文学史上の重要な作家の一人として高く評価されていた。
[猪熊葉子]
『高杉一郎訳『トムは真夜中の庭で』(1967・岩波書店、1975・岩波少年文庫)』▽『猪熊葉子訳『まぼろしの小さい犬』(1970・少年少女学研文庫、1989・岩波書店)』▽『前田三恵子訳『ミノー号の冒険』(1970・文研出版、足沢良子訳、改題『ハヤ号セイ川をいく』1974・講談社、1984・講談社青い鳥文庫)』▽『前田三恵子訳『おばあさん空をとぶ』(1972・文研出版)』▽『いのくまようこ訳『りす女房』(1982・冨山房)』▽『高杉一郎訳『幽霊を見た10の話』(1984・岩波書店)』▽『高杉一郎訳『ペットねずみ大さわぎ』(1984・岩波書店)』▽『猪熊葉子訳『まよなかのパーティー ピアス短篇集』(1985・冨山房、『真夜中のパーティー』2000・岩波少年文庫)』▽『高杉一郎訳『サティン入江のなぞ』(1986・岩波書店)』▽『猪熊葉子訳『エミリーのぞう』(1989・岩波書店)』▽『猪熊葉子訳『ふしぎなボール』(1989・岩波書店)』▽『高杉一郎訳『こわがってるのはだれ?』(1992・岩波書店)』▽『片岡しのぶ訳『8つの物語 思い出の子どもたち』(2002・あすなろ書房)』▽『フィリパ・ピアス、山田太一「物語は時間を超えて」(『世界』498号所収・1987・岩波書店)』▽『フィリパ・ピアス、清水真砂子「ふたつの時間の出会う場所」(『へるめす』43号所収・1993・岩波書店)』▽『猪熊葉子著「イギリス児童文学散歩――ピアス、クレスウェル、ノートン、ゴッデンを訪ねて」(『図書』239号所収・1969・岩波書店)』▽『上野瞭著「発見のための通路――フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』をめぐって」(『現代の児童文学』所収・1972・中公新書)』▽『吉田新一著「『トムは真夜中の庭で』をめぐって」(日本児童文学者協会編『日本児童文学』19巻3号所収・1973・すばる書房盛光社)』▽『フィリッパ・ピアス著、猪熊葉子訳「種から木へ――『とっても小さい犬』創作ノート」(『子どもの館』17号所収・1974・福音館書店)』▽『猪熊葉子著「『トムは真夜中の庭で』――「時」の謎を追究したピアス」(猪熊葉子・神宮輝夫著『イギリス児童文学の作家たち ファンタジーとリアリズム』所収・1975・研究社出版)』▽『フィリッパ・ピアス著、神宮輝夫訳「『まぼろしの小さい犬』をどう書いたか」(エドワード・ブリッシェン編『とげのあるパラダイス――現代英米児童文学作家の発言』所収・1982・偕成社)』▽『J・R・タウンゼンド著、高杉一郎訳『子どもの本の歴史――英語圏の児童文学 下』(1982・岩波書店)』▽『星野千春著「特別インタビュー Philippa Pearce――イギリスファンタジー児童文学の第一人者 フィリッパ・ピアスさん」(『Moe』6巻3号所収・1984・白泉社)』▽『ハンフリー・カーペンター著、定松正訳『秘密の花園――英米児童文学の黄金時代』(1985・こびあん書房)』▽『フィリパ・ピアス著「ガラスの上の物語 ガラスの向こうの物語」(『朝日ジャーナル』28巻37号所収・1986・朝日新聞社)』▽『フィリパ・ピアス著、百々佑利子訳「ある作家の見解」(『なぜ書くか・なぜ読むか――1986年子どもの本世界大会 第20回IBBY東京大会』所収・1987・日本国際児童図書評議会)』▽『猪熊葉子著「フィリッパ・ピアスの世界 冷静なリアリストの目をもつ作家」(日本児童文学者協会編『日本児童文学』36巻4号所収・1990・文溪堂)』▽『フレッド・イングリス著、中村ちよ・北條文緒訳『幸福の約束――イギリス児童文学の伝統』(1990・紀伊國屋書店)』▽『脇明子著『ファンタジーの秘密』(1991・沖積舎)』▽『神宮輝夫著『現代イギリスの児童文学』(1994・理論社)』▽『シーラ・イーゴフ著、酒井邦秀他訳『物語る力――英語圏のファンタジー文学:中世から現代まで』(1995・偕成社)』▽『フィリパ・ピアス著、白坂麻衣子訳「心からの望みがかなうとき」(デヴィッド・リーズ編『物語る人びと――英米児童文学18人の作家たち』所収・1997・偕成社)』
アイルランドの教育者,文学者。イースター蜂起の指導者。ダブリンに生まれ,若いころからゲーリック語と英語の2言語併用の新聞の編集,2言語教育の学校設立,革命の開始という抱負をもっていたと伝えられる。1895年に若くしてゲーリック語連盟に加入し,ローヤル・ユニバーシティ卒業後,カトリック大学でアイルランド語を教え,同時にゲーリック語連盟機関紙(2言語併用)の編集者になった。また,1908年セント・エンダ校を創立して2言語教育を開始した。13年にはアイルランド義勇軍組織委員会委員となり,IRB(アイルランド共和主義同盟)に参加,その最高会議委員に登用された。16年のイースター蜂起では,義勇軍を指揮し,アイルランド共和国臨時政府宣言を起草,臨時政府大統領としてこの宣言を読みあげた。しかし蜂起は失敗,イギリスの軍事法廷で死刑を宣告され,5月3日に銃殺された。蜂起に参加した弟のウィリアムWilliam Pearse(1881-1916)も4日に銃殺された。現在ダブリンには,愛国者ピアスを記念してその名を冠した通りと駅がある。
執筆者:上野 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…現代では耳朶に孔をあける必要はなくなったが,簡便に小孔をあける(pierced ears)技術が開発され,1970年代後半から盛んに行われている。長く耳朶に孔をあけることを行わなかった日本では,とくに区別してピアスと呼んでいる。 アジアの諸民族の間には,現在も乳児の頃から耳朶に孔をあけ,小さな星の耳飾をつける者が少なくない。…
…13年のダブリン大争議を指導し,資本側の攻撃から労働者を守るためにアイルランド市民軍を組織した。16年イースター月曜日には,この市民軍を率いてP.H.ピアスのアイルランド義勇軍とともに蜂起し,ダブリンの中央郵便局に本部をおいて蜂起軍を指揮した。約1週間の戦闘の後イギリス軍に降伏し,軍事裁判ののち銃殺刑に処された。…
※「ピアス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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