フアンマヌエル(その他表記)Don Juan Manuel

改訂新版 世界大百科事典 「フアンマヌエル」の意味・わかりやすい解説

フアン・マヌエル
Don Juan Manuel
生没年:1282-1348

スペインの散文作家。スペイン中世最大の学芸の庇護者である賢王アルフォンソ10世の甥で,文武両道をよくする宮廷人であったが,代表作《ルカノール伯爵Conde Lucanor》(1335)によって不朽の名声を得ている。この作品は若いルカノール伯爵が養育係のパトロニオに人生万般について教えを乞い,パトロニオがさまざまな寓話をまじえながら道徳的訓戒を与えるという形式をとった51話からなる説話集であり,その13年後に書かれたボッカッチョの《デカメロン》とともに後のヨーロッパ文学に多くの素材を提供した。例えば,シェークスピアの《じゃじゃ馬ならし》はこの説話集の第35話に基づいているし,アンデルセンの《裸の王様》の原型も第32話に見いだされる。ほかに《騎士従士の書》や《狩猟の書》などを書いた。彼は審美的効果を意識して独自の文体をつくり出した最初のスペイン作家である。
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関連語 牛島

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フアンマヌエル」の意味・わかりやすい解説

フアン・マヌエル
ふあんまぬえる
Don Juan Manuel
(1282―1348)

スペインの寓話(ぐうわ)作家。アルフォンソ10世賢王の甥(おい)として、トレド県のエスカローナで5月5日に生まれ、1348年6月13日コルドバで没。スペイン文学史上、初めて芸術創造者として文学者の存在を意識し、自分なりの文体を確立しようとした作家。それは代表作の、50編からなる短編説話物語集『ルカノール伯爵』にとくに顕著である。これは、イスラム系の箴言(しんげん)集や物語集、ラテン語による物語集、スペインの年代記、さらには自分が深くかかわった修道会ドミニコ会の説教集をおもに駆使し、彼なりの文学的展開を示したものである。その他の主要著作に『身分の書』があり、中世スペインの社会を知るうえの必読書である。

[清水憲男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フアンマヌエル」の意味・わかりやすい解説

フアン・マヌエル
Juan Manuel, Don

[生]1282.5.5. トレド,エスカロナ
[没]1348頃.コルドバ
スペインの政治家,作家。フェルナンド聖王の孫,アルフォンソ賢王の甥で,賢王に育てられた。政治家,軍人としての多忙な生活のなかで,寓話集『パトロニオの書,もしくはルカノール伯爵』 El libro de Patronio o el Conde Lucanor (1335?) をはじめ,『騎士と従士の書』 Libro del Caballero et del Escudero (26) ,『国家論』 Libro de los estados (30) などを著わした。

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