改訂新版 世界大百科事典 「フウチョウ」の意味・わかりやすい解説
フウチョウ (風鳥)
bird of paradise
スズメ目フウチョウ科Paradisaeidaeの鳥の総称。この科は約20属40種からなる。ゴクラクチョウ(極楽鳥)という別名で知られているように,この科の約半数の種の雄はきわめて美しく,しかも特異な形の飾羽をもっている。解剖学的にはカラス科に近い。カンムリフウチョウモドキ亜科の3属3種と,フウチョウ亜科17属37種とに分類され,モルッカ諸島あるいはオーストラリアに分布する数種を除いて,すべてニューギニアとその付属の島々に生息している。どの種も森林にすみ,その分布域は平地から高山にまで及んでいる。雄の長い尾や飾羽を除いた全長は,20~46cm。およそムクドリ大からカラス大である。この科の約半数の種では,雌雄間の羽毛の相違は少ないか,ほとんどなく,これらの種は一夫一妻制のつがい関係で繁殖し,雄も育雛(いくすう)にあたる。残りの半数の種では,雌は全体にじみな羽色をしているが,雄はきわめて美しく,鮮やかな赤色,橙色,黄色,緑色,青色,藍色,紫色,黒色,白色,灰色などの何色もの羽毛で飾られ,さらに,さまざまな形のみごとな飾羽をもつ種が多い。
これらの種の雄は,繁殖期になると枝上で美しい羽毛をおおげさに開閉したり,開いた羽毛をこきざみにふるわせたり,逆さまに枝にとまったり,さまざまな姿勢をとってディスプレーをする。このディスプレーは,ある種では各雄がそれぞれ固有の樹上を踊場にして行われ,またある種では特定の踊場に数羽の雄が集まって行われる。雌はこの踊場にひきつけられ,1羽の雄は1繁殖期間に数羽の雌と踊場で交尾を行う。こういう方法で交尾を行って繁殖する(乱婚制という)種では,巣づくり,抱卵,育雛は雌だけが行う。一般に乱婚制の種では,その巣は踊場から離れたところにつくられる傾向がある。この科の数種については,その巣がまだ発見されていない。ヒヨクドリは樹洞に産卵し,カンムリフウチョウモドキは朽木の幹のてっぺんにあるくぼみに産卵する。この2種以外は,上に開いたわん形の巣を枝上や枝の叉状部につくる。産卵数は少なく,1腹1卵か2卵である。なお,フウチョウ類の繁殖生態は自然環境下で詳しく調査されているわけではなく,飼育下での観察によって推測されているものが多い。
この科の鳥の羽毛は,前述のように非常に美しく,ニューギニアの原地人のみならず,ヨーロッパ人の装飾品として用いられた。そのため18~19世紀には大量の鳥が捕獲され,婦人のさまざまな装飾品として売買された。この際,輸入された標本がすべて脚を切り落とされていたので,これらの鳥に脚がないという伝説が生まれ,リンネはこの1種オオフウチョウにParadisaea apoda(脚のないフウチョウ)という学名をつけた。19世紀末には,パリに毎年5万羽ものフウチョウが持ち込まれていたという。その結果,個体数が著しく減少したものもあったが,1920年代に入り,フウチョウ類の絶滅を警告する意見が高まり,ニューギニアからの輸出を禁止する法律が制定され,現在に至っている。しかし,現在でも密猟が絶えない。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報