労働者教育の一環として、働く人々が低料金で定期的に観劇できることを目的として設立されたドイツの観客動員組織。「民衆舞台」の意。社会主義労働運動と呼応して1890年にベルリンで自由民衆舞台(フライエ・フォルクスビューネFreie Volksbühne)が発足した。初めは日曜午後に既設の劇場を借りての自主上演だったが、1914年に会員の醵金(きょきん)によって自前の劇場をもつに至り、ピスカートルが主席演出家となって社会主義革命を呼びかける演劇の推進に努めた。33年ナチズムの台頭によって実質的に機能を停止、45年に組織が再興された。旧東ベルリンでは劇場が残ったが、観客組織は解消した。一方、旧西ベルリンでは63年に「自由民衆舞台」の自主経営による劇場が新たに開場した。
1989年の東西ドイツ統一に伴うベルリンの壁の崩壊を機に、東西に分かれていたベルリンの演劇界は大きく変わり、東側の劇場は次々に西側(旧西ドイツ)の演劇に組み込まれていった。そのなかで、東ベルリンに根拠地をもっていたフォルクスビューネは、東西ドイツ統一後に東ドイツの人々の意識を代弁する作品を手がけることによって注目を浴びるようになった。一方、西ベルリンにあった「自由民衆舞台」はベルリン劇界の再編成の過程で自主上演する劇団を失い、劇場としての名を残すのみとなり、主としてミュージカル客演のために舞台を提供している。
[宮下啓三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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