日本大百科全書(ニッポニカ) 「フクヤマ」の意味・わかりやすい解説
フクヤマ
ふくやま
Francis Fukuyama
(1952― )
アメリカの国際政治学者。別称ヨシヒロ・フクヤマ。シカゴ生まれの日系三世。父は日系二世で母は日本人。京都大学経済学部の創設時の教授で、大阪商科大学の初代学長を務めた経済学者河田嗣郎(かわたしろう)(1883―1942)が母方の祖父にあたり、この祖父よりマルクスの『資本論』の初版を含む膨大な蔵書を継承する。1974年コーネル大学文理学部卒業(専攻は西洋古典学)。エール大学大学院(専攻は比較文学)を経て、1981年にソ連の外交政策と中近東の情勢をテーマとした研究論文によってハーバード大学から政治学の博士号を授与される。その後国務省で政策企画スタッフを務め、おもに軍縮、エジプト、イスラエル・パレスチナ問題を担当した。1983年にワシントンDCのランド研究所に転出、研究員および顧問として政府の政策立案に携わる。1989年には国務省の政策企画局次長に登用された。ジョージ・メーソン大学教授、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授を経て2010年よりスタンフォード大学上級研究員。
1989年、『ナショナル・インタレスト』National Interest誌に論文「歴史の終わり」The End of History and the Last Manを発表する。この論文は、当時ソ連・東欧圏で相次いでいた政権崩壊とそれに伴う世界構造の再編を、アレクサンドル・コジェーブのヘーゲル解釈概念である「歴史の終わり」になぞらえて論じたもので、その時宜を得た論旨の展開は国際的にも異例の反響を呼び、フクヤマの名は一躍世界中に知れわたった(この論文を大幅に増補した同名の書物は1992年に刊行された)。また『「大崩壊」の時代』The Great Disruption; Human Nature and the Reconstitution of Social Order(1999)では「われわれが希望をもちうる唯一の理由は、社会秩序を復元する強靭な能力が人間に生まれつきそなわっているという事実である。歴史がよい方向へ進んでいくかどうかは、この復元作業がうまくいくかどうかにかかっている」と述べている。古典を多く参照したその議論はほかにハイエクなどの強い影響がうかがわれ、またハンチントンの「文明の衝突」などともしばしば比較されるが、冷戦構造の終焉(しゅうえん)をアメリカの勝利と位置づけ、「リベラルな民主主義が近代化の究極的社会システム」とする議論は性急にすぎ、ヘーゲルの曲解に基づく粗悪なプロパガンダとの批判も少なくない。
その他の著書に、『信無くばたたず』Trust(1995)、『人間のおわり』Our Posthuman Future; Consequences of the Biotechnology Revolution(2002)など。多くの主著は日本でも翻訳され、おもにビジネスマン層の読者からの支持を得ている。
[暮沢剛巳]
『加藤寛訳『信無くばたたず』(1996・三笠書房)』▽『鈴木主税訳『「大崩壊」の時代――人間の本質と社会秩序の再構築』(2000・早川書房)』▽『『人間のおわり――バイオテクノロジーはなぜ危険か』(2002・ダイヤモンド社)』▽『渡部昇一訳、特別解説『歴史の終わり』上下(2005・三笠書房)』▽『フランシス・フクヤマ著、会田弘継訳『アメリカの終わり』(2006・講談社)』