寡占企業の価格設定方式を示す原則。変動費(主として賃金、原材料費用、燃料・動力費用などの直接費)と固定費(主として経営者の給料、減価償却費、保険料、広告費などの間接費)との合計である総費用を生産量で割った、生産量1単位当り費用(単位費用)を基礎とし、それにマーク・アップ率を上乗せして価格を設定するというものである。つまり、
価格=(1+マーク・アップ率)
×単位費用
である。この方式によると、単位費用を基礎とし、それにある大きさの利潤を積み増して価格が決定されるのである。
従来は、利潤最大化を目的とする寡占企業の行動様式は、限界概念を用いて分析されるのが通常であった。しかし現実には、企業は価格決定に際して限界概念を用いていないことが、1930年代の終わりに、企業経営者とのインタビューに基づいたR・L・ホールとC・J・ヒッチを中心とするイギリスのオックスフォード大学のグループの研究により明らかにされた。それ以後の実証研究においても、寡占企業の価格形成行動は、短期的な需要側の条件の変動に対して非感応的であり、企業による価格の管理が広くなされているという経験的事実が報告されている。つまり、企業はある程度の期間、価格を固定してその価格のもとで販売しうるだけ製品を生産する、というのが現実の寡占企業の調整方式である。
フルコスト原則は、価格は主として費用要因に依存して決定されることを示すが、それに対する批判もある。すなわち、産業の状態によっては、費用要因だけではなく、市場の需給メカニズムを反映する要因(現実の操業度に対応する産出量の能力産出量に対する比率や、未充足注文量の販売量に対する比率など)をも考慮すべきであるという批判である。これら二つの要因のうち、どちらが強く作用するのかを集中度との関連でみると、集中度の高い産業では、市場の需給メカニズム要因よりも費用要因のほうが企業の価格形成行動に強い影響を及ぼす、というのが最大公約数的結論である。ある産業が少数大企業に占有されると、競争力が弱まり、短期的景気変動に応じて価格を変更することはなく、長期にわたって価格を現行水準に維持するのである。
[内島敏之]
『R. L. Hall and C. J. HitchPrice Theory and Business Behaviour (1939, Oxford Economic Papers)/repr. in T. Wilson and P. W. S. Andrews (eds.) :Oxford Studies in the Price Mechanism (1951, Clarendon Press, Oxford)』▽『根岸隆著『ケインズ経済学のミクロ理論』(1980・日本経済新聞社)』
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