日本大百科全書(ニッポニカ) 「限界分析」の意味・わかりやすい解説
限界分析
げんかいぶんせき
marginal analysis
経済行動の決定が限界(最後に投下される単位)量によってなされるという原理に基づく分析手法をいう。たとえば、企業がその生産量をどれほどに決めるかという場合、もう1単位生産量を増すときに要する費用の増し分(限界費用)が、それを売ることによって得られる収入の増し分(限界収入)より小さいかどうかの判定によって決められるとする。これが限界分析である。
古典派経済学やマルクス経済学が、D・リカードの差額地代論などを例外として、主として平均量による平均分析を手法としていたのに対して、1870年代初頭、C・メンガー、L・ワルラス、W・S・ジェボンズによって限界効用概念が提起されてから、限界分析が行われるようになり、価値論から生産・分配論に至るマクロ、ミクロを問わぬ全分野で用いられ、成功を収めている。とくに、これによって近代経済学が、「決定の論理」(経済活動が、それ以上でも以下でもない、ある大きさに決定されるという論理手法)をもつことになった点が重要である。この意味で限界原理の採用を限界革命とよぶことがある。
限界分析の問題点は、現実に経済活動を行っている人々が、限界概念を意識して行動してはいないのではないか、たとえば寡占の企業家は、平均費用にある倍率(マーク・アップ率)を掛けて価格を決めているではないかという点である。これに対しては、完全に合理的な経済活動なら限界概念に従っているはずだという答え、あるいは寡占などの平均原理による行動のように、経済の各分野にはそれぞれの行動原理があって、限界原理はその一つであるとする答えなどがなされている。
[一杉哲也]