価格形成(読み)かかくけいせい(英語表記)pricing

翻訳|pricing

改訂新版 世界大百科事典 「価格形成」の意味・わかりやすい解説

価格形成 (かかくけいせい)
pricing

利潤を目的とした民間企業のおもな価格形成原理として,限界原理フルコスト原理がある。限界原理marginal principleというのは,企業は生産の追加的増加による収入の増加分(限界収入)が費用の増加分(限界費用)と等しくなる数量で生産を行うことによって利潤の最大化を図れる,というものである。限界収入が限界費用を上まわっている状態にあれば,それより生産を拡大することにより企業の獲得する利潤は増大し,逆の場合には減少する。価格は生産量がちょうど売り尽くされるような水準で決められる。これに対して,フルコスト原理full-cost principleは,生産物1単位あたりの生産に要した費用(平均費用と呼ばれ,総費用を生産量で割った値)に一定率を上乗せして価格とする,という考え方である。費用に上乗せされた一定率に対応する収入は企業の利潤となる。この一定率はマークアップ率mark-up percentageと呼ばれている。企業はマークアップ率を決めるにあたって,他の企業の行動や需要者の動向に注目し,利潤を最大にするように行動すると考えれば,フルコスト原理と限界原理との間には共通性がある。

民間公益企業や公共法人の価格形成は,一般企業のそれとは異なった特徴がある。日本道路公団などの公共法人の多くに共通した原則独立採算制である。これは,財・サービスの供給に要した費用をちょうど償うように価格を決めるというもので,平均費用価格形成原理と基本的には同じである。以下,主要な価格形成原理ないし方法について説明する。

(1)ピーク・ロード価格形成peak load pricing 時間帯別,曜日別,季節別の価格形成をさす。電力を例にとると,電力の年間を通じたピーク需要は,日本では真夏の昼過ぎに発生する。電力会社は,電力を大量に貯蔵しておくことが不可能であるから,この需要を満たしうるように供給能力を確保しなければならない。しかしながら,ピーク需要に供給能力を合わすと,他の時間帯や季節には供給設備の一部は遊休化する。このとき,設備を有効に使う一つの方法として,ピーク需要時の料金を高めに設定して,ピーク需要を抑制する一方,非ピーク時の料金を低くしてその期の需要を喚起する方策が考えられる。日本の電力料金にもこのような考え方がとり入れられ,真夏の工業用電力の単価は夏季以外の季節のそれよりも高くなっている。別の例として,夜間日曜・祝日の長距離電話の割引制度や,公営バス・地下鉄の昼間の非ラッシュ時にだけ利用できる特別割引回数券などがある。

(2)二部料金 電力料金,電話料金,水道料金,ガス料金など私営・公営を問わず,公益事業に一般的な価格形成の方法である。料金は,使用量に依存しない基本料金(固定料金)と,使用量単価が決められていて使用量に応じて支払額が増大する従量料金の2部から構成されている。このうち,基本料金は施設・設備に要する費用に充当され,従量料金は経常的費用に対応すると考えられている。このような二部料金制は,公益事業だけでなく,遊園地でもしばしばみられる。通常,遊園地では,入場料を基本料として支払い,乗物等を利用する場合は,そのつど料金を支払う。従量料金が課されず,基本料金だけのものを定額料金と呼ぶ。

(3)ブロック料金 使用量がいくつかのブロックに分けられ,ブロックごとに単価が異なっているような料金制をいう。電気料金を例にとると,家庭用電気料金は1ヵ月120kWhと200kWhを境に3ブロックに分けられていて,各境を超えて消費した場合には超した分について高い単価が適用されている。1ヵ月の使用量が120kWh未満の利用者に対しては,それが平均的な家計の生活必要的な量であるとして,比較的低い単価が適用されている。このように従量料金単価が使用量に応じて高くなる料金制度を逓増型料金と呼ぶ。逓増型料金が電気料金に適用されだしたのは,日本ではエネルギー消費節減が叫ばれた第1次石油危機後の1974年からである。類似の料金制度は大都市の水道料金にも適用されている。逆に,料金単価が使用量に応じて低くなるケースは逓減型料金制と呼ばれる。第1次石油危機までの電力料金や水道料金には,このシステムが適用されていた。

(4)差別料金 同じ財・サービスを需要者によって異なった料金で供給することを差別料金と呼ぶ。このような料金政策がとられる理由には,第1に経済的弱者に対する配慮がある。公営バス・地下鉄などの老人無料パス,学生割引などはその例である。第2に,政府・自治体の産業振興策として,差別料金がとられることがある。工業用水道の割引や通勤定期のかつての大幅割引などがそれである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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