日本大百科全書(ニッポニカ) 「フールマノフ」の意味・わかりやすい解説
フールマノフ
ふーるまのふ
Дмитрий Андреевич Фурманов/Dmitriy Andreevich Furmanov
(1891―1926)
ソ連の小説家。コストロマ県(ロシア連邦コストロマ州)の農民の出身。実業学校、モスクワ大学文学部に学ぶ。1918年入党、地方の党活動ののち19年から国内戦の伝説的な英雄チャパーエフ麾下(きか)の部隊などで政治委員として活躍、その体験をもとに記録文学的な手法で書き上げた長編『チャパーエフ』(1923)が初期ソビエト文学の傑作として広範な読者に迎えられた。民衆肌の司令官の豪放さと、作者の分身である党政治委員の緻密(ちみつ)な組織者的役割とを対比させ、農民パルチザン兵と労働者部隊の気質の差をリアルに描き分けながら、革命戦のロマンチシズムを歌い上げた手並みは非凡である。これはワシーリエフ兄弟によって映画化され、ソビエト映画史に残る傑作となった。ほかにトルキスタンの国内戦を描いた長編『反乱』(1925)があり、ラップ・モスクワ支部長などとして文学運動でも指導的役割を果たした。
[江川 卓]
『名越民樹訳『チャパーエフ』全2巻(1968・新日本出版社)』