改訂新版 世界大百科事典 「ブルーリボン」の意味・わかりやすい解説
ブルーリボン
ブルーリボンはイギリスのガーター勲章のリボンの色が青であることから,競争における1等の別称となったが,通常は大西洋のブルーリボンBlue Ribbon(Riband) of the Atlanticを指し,大西洋横断のスピード記録をもつ船への非公式,無形の栄誉を意味する。
1818年ブラックボール・ラインにより帆船での定期運航が史上初めてリバプール~ニューヨーク間で開始されたが,自然条件に左右され,新しい推進力である蒸気機関への期待は大きかった。しかし,燃料消費量が大き過ぎ,港内の引船や燃料集積所を設けられる沿岸航路には蒸気船が使われるようになったが,大洋横断は困難と思われていた。38年蒸気力を継続使用して大西洋を最初に渡った船の栄誉は,シリウス号(700登録トン,外輪320馬力)が獲得した。このシリウス号のニューヨーク入港の4時間後に投錨したグレート・ウエスタン号(1321登録トン,外輪750馬力)は不世出の天才I.K.ブルネル設計によるもので,平均速力8.7ノット,15日半の記録は,18日10時間,平均6.7ノットのシリウス号のものをはるかにしのいだ。こうして蒸気機関は帆の補助手段から推進力の主役への道を歩み始め,出入港の予定が組まれる真の定期航路が生まれた。このことは人々を刺激し,競馬のようにスピード競争にかけることになる。
ブルーリボンが,いつ,どの船に対していわれるようになったかは明らかではない。競争に負けた船の船長が相手の船長にブルーリボンを贈ったという逸話も残っているが,あくまでもユーモア表現としてであった。このスピード記録は,出入港,航行距離が異なるので平均速力を比較するのがつねである。最初は産業革命の先進国イギリスが記録をもっていたが,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランスと西欧諸国が自国の技術と美の精緻(せいち)をかたむけ,より速く,より安全で豪華な航海を競い,このことは取りも直さず船の大型化,高馬力化,客室設備の向上につながり,それらの豪華客船は海の女王と呼ばれるにふさわしいものとなっていった(表参照)。
なお,1935年ブルーリボンを有形のものとするトロフィーがイギリスのH.ヘールズによって寄贈され,ブルーリボン獲得の船に与えられた。しかし,それまでも数々の記録をつくった船を所有した最大手のキュナード・ラインは,このヘールズ杯を認めなかった。
執筆者:山形 欣哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報