最新 心理学事典 「プライミング効果」の解説
プライミングこうか
プライミング効果
priming effect
認識の対象となる語彙(ターゲット語としてのdoctor)を認識するとき,前もって意味的関連性をもつ語彙(プライム語としてのnurse)が提示された場合は,関係のない統制語(たとえばfrog)などが提示された場合や何も提示されない統制条件(語の代わりに「***」などを提示)に比べて反応時間(潜時latency)が短くなる。これは語彙認識課題lexical decision task,知覚的同定課題perceptual identification task,呼称課題naming taskなど,語の認識を行なう課題に共通に表われる。プライム語の先行提示により,その語と意味的関連性をもつ語彙項目に対して,あらかじめ一定の活性化がもたらされるためと考えられている(活性化拡散仮説)。その効果は数秒後には活性化が沈静化するために消失する。この現象を意味的プライミング効果semantic priming effectあるいは間接プライミング効果indirect priming effectという。人の心的辞書において各語彙項目がノードnodeとなり,意味的関連性という相互リンクlinkが設定されているという意味的ネットワーク理論semantic network theoryの根拠とされている。しかし,この現象自体は,心的辞書が意味を構成する要素のリストから成ると考える組成比較モデルによっても現象を説明することは可能である。
意味的プライミング効果が,連想語あるいは意味的関連性のある語によって,短時間(数秒)の範囲で発生する現象であるのに対し,プライム語がターゲット語と同一の語である場合,その効果は数週間以上にわたって存在することが知られており,これを反復プライミング効果repetitive priming effectあるいは直接プライミング効果direct priming effectという。語の認識を必要とする種々の課題に共通して観察されている。この現象は,一度の経験の記憶が意識的想起を伴わない形で利用されていると考えられることから,潜在的記憶implicit memoryの代表例とされる。プライム語の先行処理によって,ターゲット語の内的処理が,より少ない労力で行なわれるためだと考えられる。しかし意識的には別の要因によって生じたのだと誤って判断されることがある。これを記憶の誤帰属memory misattributionという。
語義などいわゆる意味の側面のみならず,価値あるいは感情的判断といった側面においても,関連する先行刺激と類似の価値,感情に関する処理が促進される現象として,感情プライミングaffective primingとよばれる現象がある。注意attentionに関する研究では,先行する刺激の処理が抑制された場合,その後に提示されたターゲット刺激への反応も引き続き抑制されるという現象があり,これをネガティブ・プライミングnegative primingとよんでいる。活性化による促進効果のみでなく,「ある反応を抑制するという処理」についても一時的な促進が得られる点が興味深い。また,特定項目の処理ではないが,動機づけに関するプライム刺激が,その後の課題達成や目標設定に影響を及ぼすという,達成プライミングachievement primingという現象についても研究がなされている。
〔原田 悦子〕
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